マイコンテンプレートへ機能を追加するには、既に枠組みが出来上がっているテンプレートへ、追加機能名のファイルを新規作成し、追加機能をこのファイル内で記述、テンプレートのLauncher()で起動すれば完成です。長文であった第3回を、一口で言えばこうなります(トホホ… Orz)。
これは、Arduino IDEの新規作成ファイル画面です。このsetup()とloop()の構造は、Arduinoに限らず全ての「組込みソフトの基本形」です。つまり、無限ループ前に1回実行する「初期設定処理」と、無限ループ内の「繰返し処理」の2つから構成されます。
弊社マイコンテンプレートもこの基本形に則っています。但し、機能追加がし易いように、無限ループがLauncher()に変形し、複数のユーザ関数を起動できるように工夫しているだけです。
従って、最も安直(!?)な機能追加の方法は、追加機能のサンプルソフトを見つけることです。あとはテンプレートのLauncher()でこのサンプルソフトを起動すれば、テンプレートへ機能追加ができるのです。
今回の目標は、テンプレートへのSDカード機能の追加です。そこで、このSDカード機能追加に最適と思うサンプルソフト:Developing Applications on STM32Cube with FatFs:UM1721を解説します。
UM1721: Developing Applications on STM32Cube with FatFs
2014年6月版 UM1721では、STM32Cubeと記述されていますが、これはSTM32CubeMX(以下CubeMX)のことです。また、STM32F4xxとSTM32CubeF4で記述されていますが、全てのSTM32デバイスとCubeMXに置換えて読めば使えます。
FatFsは、ユーザアプリケーションと下層HAL(Hardware Abstraction Layer)の間で機能するミドルウェアで、主目的は、開発するアプリケーションが読書きするデータと、物理ストレージファイルの割付(領域管理)です。パソコンなどでは、本来WindowsなどのOSが行う機能を代行するのがFatFsと考えれば良いでしょう。また、FatFs自体はMCUハードウェアには依存しないので、本稿STマイクロエレクトロニクス以外のマイコンでも使えます。
もっと知りたい方は、UM1721の2章までに詳しく記述されています。本投稿は、FatFsを使うサンプルソフトが目的ですので読み進めると、3.3のサンプルソースが見つかります。
FatFsサンプルソフト
懇切丁寧なサンプルソフトとは言えませんが、必要最低限で記述しているのでしょう。一見、組込みソフトの基本形と違うと思われるかもしれませんが、初期設定処理はCubeMXが自動生成し、別の場所にソースコードを出力するため(おそらく)省略しています。また、ファイルアクセスは低速なので、繰返し回数を1で処理すると考えれば、このサンプルソフトも基本形に則っています。
サンプルソフトから、FatFsを使うAPI(Application Programming Interface)が5種、FatFsとLow Level Disk I/O Driversをリンクする2種のAPIを使えば、SDカードへの読書きができることが解ります。
※書込み:f_write()を、f_read()に置換えれば読込みができます。
用途 | API |
FatFsとアプリケーション間 |
f_mount() |
f_open() |
|
f_close() |
|
f_read() |
|
f_write() |
|
FatFsとLow Level Disk I/O Driversリンク間 |
FATFS_LinkDriver() |
FATFS_UnLinkDriver() |
FatFsサンプルソフトAPI動作テスト
このサンプルソフトを、第3回で使用したレファレンスプロジェクトへ挿入し、各APIの動作を確認します。
結果は、FatFsとアプリケーション間5種全てのAPIで正常動作が確認できました。つまり、レファレンスプロジェクトでは、このサンプルソフトを使いSDカードへの読書きができます。その結果、SDカードへwtext[] = “text to write logical disk”のデータを、ファイル名STM32.txtとして保存できました。
レファレンスプロジェクトは、Low Level Disk I/O Driversリンク側のAPI相当を、エキスパートが自作しているのでコメントアウトしています。
STM32CubeMXでFatFs機能追加
第3回と同様、シンプルテンプレートをRenameし、機能追加用のSPI1FatFs_Sdプロジェクトを作成し、CubeMXでSPI1とFatFs機能を追加します。また、SdCard.cファイルを作成し、この中に前章で動作確認したサンプルソフトを挿入します(プロジェクトやファイル作成の詳細は、第3回を参照)。
Launcher()からサンプルソフトを起動し、1回のみ処理するように変更を加え、レファレンスプロジェクトと同様各APIのリターン値を確認しましたが、f_open()以降で正常動作しません。
初期設定処理を自動生成するCubeMXのFatFs設定に間違いが無ければ、SPI1FatFs_SdプロジェクトでもユーザデータをSDカードへ読書きできるハズです。UM1721には、FatFsの設定記述がないので、CubeMXのFatFsデフォルト設定にしましたが、お手上げです。
そこで、STM Communityを検索すると、例えばコチラのように現在のCubeMXのFatFsにはバグがあるようです。対策もCommunityにありますが、STMもバグ状況を把握していますのでCubeMXの改版を待つ方が良さそうです。
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サンプルソフト自体は、レファレンスプロジェクトで動作確認済みです。CubeMXのFatFs初期設定生成に問題があることは間違いありません。つまり、組込みソフト基本形の初期設定以外の半分(50%)の処理をUM1721から獲得できたと言えます。
Tips: 動作サンプルソフトは、FatFsがMCUハードウェアに依存しないので、他社マイコンでも使えます。獲得した50%処理は、適用範囲が広いものです。
対策としては、STMによるCubeMX改版を待つこと、レファレンスプロジェクトからFatFs関連の初期設定を抜き出すこと、の2つあります。後者については、検討中です。