テンプレート移植(Cortex-M0+ → M0編)

ARM Cortex-M0+のLPC8xxテンプレートをCortex-M0テンプレートへ移植するに際し、使用評価ボードを比較し、既存テンプレートのどこに変更が必要かを把握します。

評価ボード比較

評価ボード LPCXpresso LPC820 REV A LPCXpresso LPC1114 REV A
ボード写真(LPC-Link部除く)

LPCXpresso LPC820
LPCXpresso LPC820

LPCXpresso LPC1114
LPCXpresso LPC1114
実装マイコン LPC820
LPC812M101JDH20 TSSOP20
LPC1114 LPC1100L(第2世代)シリーズ
LPC1114FBD48/302 LQFP48
CPUコア ARM Cortex-M0+ 30MHz(max) ARM Cortex-M0 50MHz(max)
動作電圧 1.8~3.6V 1.8~3.6V
実装水晶発振子 12MHz 12MHz
内蔵発信器 12MHz 12MHz
内蔵フラッシュ・メモリ 16KB 32KB
内蔵RAM 4KB 8KB
内蔵EEPROM なし なし
GPIO 18本(5V-tolerant I/O)
GPIO0_0~GPIO0_17
42本(5V-tolerant I/O)
GPIO0_0~GPIO0_11
GPIO1_0~GPIO1_11
GPIO2_0~GPIO2_11
GPIO3_0~GPIO3_5
アナログ入力 アナログ・コンパレータ
5ビット×1チャネル
ADC
10ビットx8チャネル
汎用タイマ 16/32ビット・タイマ(SCT)×1 16ビット・タイマ(CT16Bx)×2
32ビットタイマ(CT32Bx)×2
実装LED 3色(RED:P0_15、GRN:P0_17、BLU:P0_16) 1色(RED:P0_7)
シリアル通信 USART×1チャネル USART×1チャネル
SPI クロック同期式×1チャネル クロック同期式×1チャネル
I2C フルスペック×1チャネル フルスペック×1チャネル
消費電流
(マイコン単体)
通常時(3.3V/30MHz):3.3mA
スリープ・モード:1.8mA
ディープ・スリープ:150μA
パワーダウン・モード:0.9μA
ディープ・パワーダウン:170nA
通常時(3.3V/50MHz):7mA
スリープ・モード:5mA
ディープ・スリープ:2mA
パワーダウン・モード:なし
ディープ・パワーダウン:220nA
デバッグ機能 SWD SWD
スイッチ・マトリクス あり なし
USB なし なし

LPC820評価ボードのCortex-M0+は、Cortex-M0をさらに小型、省電力するための見直しが行われた結果、M0に比べ消費電流の少なさが際立ちます。

一方、Cortex-M0のLPC111xも、低消費電力とフラッシュ大容化の方向に進化中で、比較マイコンは、第2世代LPC1100Lシリーズです。トラ技2012年10月号掲載のLPC1114は、一つ前の第1世代でした。LPC111xには、第3世代LPC1100XLシリーズやフラッシュを64KBに増加したLPC1115などのバリエーションがあります。

しかし、このシリーズの基本は、第2世代のLPC1114 LQFP48で、シリーズ最大IOピン数の48で関連情報も多く、LPCOpenライブラリもありますので、Cortex-M0テンプレートの評価ボードは第2世代LPC1114を選びました。

なお、この評価ボードの代わりに、回路図が同じLPCXpresso LPC1115を使うこともできます。この場合の注意事項はコチラを参照して下さい。

テンプレート変更項目

テンプレートのライブラリは、LPCOpen最新版V2.xxを使用しますので、Cortex-M0+とM0のARMコア差はライブラリが収集してくれるハズです。つまり、APIがそのまま使えます。すると、テンプレート移植で変更が必要な個所は、ボード比較から差がある個所で、以下となります。

項目 変更内容
CPUコア動作周波数 30MHz動作を50MHz動作へ変更
GPIO GPIOポート番号0が0~3へ増加
アナログ入力 アナログ・コンパレータからADCへ変更
タイマ SysTickTimerは、同じものを使用するので変更なし
評価ボード実装LED 3個LED出力を1個出力へ変更
評価ボードとBaseBoardの接続 BaseBoard実装SWやその他信号線の割付変更

LPC8xxテンプレートで使ったBaseBoardは、LPC111xテンプレートでも使います。従って、BaseBoardのUART入出力、アナログ入力、LCD出力、EEPROM入出力、ブザー出力等をLPC1114評価ボードに割付けます。

こう見ると、コア動作周波数を除けば、ADCやタイマなどの周辺回路が違いますので、その制御は必要ですが、殆どIO関連です。APIが同じだと1から作るのに比べ、とても楽という気がします。M0+からM0に変わっても、既存Cortex-M0+テンプレートの殆どがそのまま使えるからです。

マイコンテンプレートの骨格

Wordには、名刺、カレンダー、パンフレットなどアプリ毎のテンプレートが用意されています。マイコンテンプレート開発時に悩むのが、どのようなアプリを意識してテンプレートを作るかです。できるだけオールマイティなテンプレートが目標です。

今回は、弊社マイコンテンプレートの骨格について説明します。

テンプレートの骨格

弊社マイコンテンプレートは、

(1)無償IDEのプログラムサイズ

(2)時分割の処理起動

(3)RAMでの関数間パラメタ渡し

(4)UARTメニュードリブン

の4つの骨格を持ちます。

(1)無償IDEのプログラムサイズ:弊社テンプレートは、IDE無償版で開発できるプログラムサイズを対象とします。これは、この程度が個人や少人数で開発/デバッグできる限界と考えるからです。これ以上大きくなると、開発/デバッグが指数的に困難となり、開発を収束させるために、例えばリアルタイムOSなどの別手段が必要になります。

最近は、無償版でも256KB程度の十分大きなサイズも開発できるようになりました。これは、IDEツールが高機能になり、API関数の自動生成や、既存ライブラリを簡単に使えるためです。これらIDE生成関数は、バグなしの完成品ですが、個人でカスタムメイドできるサイズは、今も昔もあまり変わらないと思います。経験的に無償IDEで開発できるサイズがこの上限サイズです。

(2)時分割の処理起動:マイコンは、CPUと周辺回路が「ハード的に並列動作」します。従ってCPUソフトを、周辺回路起動と処理完了確認の2つで関数化すると、複数の周辺回路を簡単に並列動作させることができます。起動から処理完了までの処理時間は、周辺回路毎に予想できますので、その間に別処理、例えばSleepをすれば電力効率もアップします。これらの処理を時分割で起動するのが弊社テンプレートです。

(3)RAMでの関数間パラメタ渡し:カスタムメイド関数のパラメタは、内蔵RAMを使って外部と入出力します。これで関数単体デバッグが簡単になります。RAM値をデバッガで確認/修正すれば、関数動作が把握できるからです。さらに、関数の中身が未完成の時でも、入出力値をRAMに設定しさえすれば、結合デバッグができるメリットもあります。

(4)UARTメニュードリブン:シリアルポートUARTを持たないマイコンはありません。Wi-FiやBluetoothモジュールをこのUARTへ接続すれば、ワイヤレス制御もできます。シリアル-USB変換ケーブルでマイコンとPCを接続し、メニュー形式で処理を選択するメニュードリブンをテンプレートに採用する理由は、2つあります。1つが、この「UARTが必ずあり、応用範囲が広い点」です。

もう1つが、メニュードリブンで開発すると「処理の移植が容易な点」です。テンプレート利用者は、メニューで示された処理のうち、必要な処理のみを簡単にテンプレートソースから見つけることができます。所望処理がUART受信コマンド解析関数から始まるからです。

そして、発見した関数(または関連関数)を、丸ごとご自身のソースへコピーすれば、動作させることができます。テンプレートは、多くの場合、この処理単位でファイル化していますので、ファイルを丸ごとコピーしさえすれば、必要な処理をテンプレートから抜き出すことも可能です。

評価ボードで実動作確認

入手性が良く低価格な評価ボードで、これらの骨格をもつテンプレートをボードへ実装し、動作確認を行い、詳細な説明資料付きで販売します。説明資料付きのテンプレートと評価ボードの組合せは、効率的に対象マイコンを習得でき、新規アプリ開発と評価に役立ちます。

販売テンプレートと開発テンプレート

現在、2種のテンプレートを販売中で、2種を年末までに開発、発売予定です。開発経過などを本ブログに記載しますので、ご参照ください。価格は、各1000円(税込)/1コピーです。

テンプレート名 ベンダ マイコン 動作確認評価ボード
RL78/G1xテンプレート Ver3 ルネサス RL78/G1x
(32MHz)
・RL78/G13 Stick
・RL78/G14 Stick
・QB-R5F100LE-TB
・QB-R5F104LE-TB
BB-RL78G13-64 (弊社推薦ボード)
LPC8xxテンプレート NXP LPC81x
Cortex-M0+
(30MHz)
・LPCXpresso LPC812  +  mX-BaseBoard
LPC1114テンプレート NXP LPC1114/5
Cortex-M0
(50MHz)
・LPCXpresso LPC1114  +  mX-BaseBoard
Kinetis/Eテンプレート(開発中) freescale Kinetis Eシリーズ
Cortex-M0+
(40MHz)
・FRDM-KE02Z40M  +  mX-BaseBoard

ARMコア利用メリットの評価

ARM Cortex-M0+コア利用のLPC8xxテンプレート発売で開発が一段落したので、Cortex-Mマイコンの現状を俯瞰して、今後の開発方針を検討します。

ARM Cortex-Mシリーズマイコンの特徴

ARM Cortex-M機種 一言で表すと…
Cortex-M0+ 超低消費電力ハイパフォーマンスマイコン
Cortex-M0 低消費電力マイコン
Cortex-M1 FPGA組込み用マイコン
Cortex-M3 汎用マイコン
Cortex-M4 デジタル信号制御アプリケーション用マイコン

 

8/16ビットキラーマイコンのCortex-M0+

M0は、8/16ビットマイコンより高性能、高エネルギー効率、高密度コードを目指して開発された32ビットコア。M0+は、M0よりさらに電力効率を最適化したコア。どちらも8/16ビットマイコンの価格レベルで32ビット性能を提供中。M0+の性能は、0.93 DMIPS/MHzで、M0の0.9 DMIPS/MHzより高性能。M0+は、M0命令セットと互換性あり。ARM Cortex-M開発ツールは、Eclipseベースとすることで、ベンダが異なっても開発環境を統一。ARM提供のCMSISを使うと、Mシリーズコアとベンダハードの差を隠ぺいすることができ、ソフト流用性も高まる。

世界定番ARMマイコンの最初のテンプレート開発にCortex-M0+を選んだ理由が、上記です。

これらCortex-Mシリーズの特徴は、ベンダやマイコン機種が変わると、一から開発環境構築やその習得、コアハードの熟知が必要だった従来マイコン開発に比べ、ベンダ/機種横断的に経験や既存資産を活かしたソフト開発が期待でき、利用者側メリットが大きいことを示しています。ARM社の狙いもココでしょう。

そこで、この「ARMコア利用メリット」を実際に試すことを今後の方針とします。

NXPのCortex-M0+テンプレート → NXPのCortex-M0テンプレートへ移植

発売中のCortex-M0+/LPC8xxテンプレートは、ARMコアベンダとしては老舗のオランダ)NXPのCortex-M0+マイコンLPC820を使ったテンプレートソフトです(写真参照)。NXPは、多くのMシリーズ製品を提供中です。そこで、このM0+テンプレートをM0機種へ移植することで、「同じベンダでCortex-M0+からM0への変更時のARMコア利用メリット」を検証します。

NXPのCortex-M0+テンプレート → フリースケールのCortex-M0+へ移植

ARMコアマイコンベンダとしては後発の米)freescaleのCortex-Mマイコンは、2014年7月現在、後発ゆえに特徴がきわ立つM0+とM4の2機種を提供中です。そこで、Cortex-M0+/LPC8xxテンプレートを、フリースケール製M0+マイコンへ移植することで、「異なるベンダでCortex-M0+ソフト移植時のARMコア利用メリット」を検証します。

どちらの検証も、いろいろなマイコンを開発してきた自身の経験と比較し、「ARMコア利用メリットを享受できるか否かの主観評価」になりますが、ARM社の狙いが絵にかいた餅なのか、本当に役立つのかの参考になると思います。

テンプレート移植
テンプレート移植

なお、別途販売中のルネサスRL78/G1xテンプレートは、コチラを参照して下さい。