マイコンテンプレート活用のアプリケーション開発(前半)

マイコンのアプリケーション開発方法として、マイコンテンプレートを使った方法を前後2回に分けて示します。
テンプレートを使えば、マイコン習得と可読性、流用性に優れたアプリが素早く開発でき、開発者毎に異なる開発手法も統一できます。
前半は、アプリケーション開発手順1~3を解説し、次回、後半で手順4を解説します。

アプリケーション開発手順

動くアプリ完成までの手順を示します。

  1. 対象動作、「何を、どうするか」を明らかにする。この段階では、細かいことを気にする必要はありません。例えば、スイッチをスキャンする程度で十分です。
  2. サンプルソフトを探す。メジャーなマイコンは、必ず多くのサンプルソフトをベンダがサイト公開しています。この中から対象動作のサンプルを探します。
  3. サンプルソフトを読む。サンプルソフトは、「初期設定処理」、次に「ループ処理」の2構成で記載されるものが殆どです。たまに、メニュードリブン形式もありますが、これは、弊社メニュードリブンテンプレートと同様、処理抜出を容易にすることを目的にしたものです。
  4. サンプルソフトの必要部分をテンプレートへ組込み、デバッグ。

以上で、アプリが完成します。

マイコンの場合、組込み後、チューニングが必要な場合もありますが、アプリ完成後の処理ですし、アプリにも依存しますので、先ずは、動くアプリ完成までの手順を示しました。

RAD: Rapid Application Developmentツールを使う場合は、2のサンプルソフトをサイトから探す代わりにRADツールを使ってサンプルソフトを生成すると考えれば良く、同じ手順となります。

サンプルソフトベースの部品化

対象動作は、スイッチ入力処理、LED出力処理などできるだけ細かく分割し、部品化することがポイントです。
最後に、これら部品を組み合わせて1つのアプリケーションにします。部品毎にサンプルソフトを見つけ、デバッグすれば、バグもこの部品内に閉じ込めることができます。また、部品単位の流用性も高まります。

サンプルソフトを組合せてアプリケーション開発
サンプルソフトを組合せてアプリケーション開発

上級者との差が出る箇所と対策

手順1~3で重要なことは、「対象動作の明確化」と、「サンプルソフトの分離読解」です。分離解読とは、初期設定とループ処理を明確に分離して解読することで、処理内容は、大体把握すれば十分です(後述サンプルソフトの読み方参照)。

上級者は、多くのサンプルソフトを経験しているので、的確に対象動作を絞り込め、分離解読が、早く深い点が違います。さらに、上級者は、個人的なテンプレートを既に持っているので、サンプルの流用、組込みとデバッグが効率よくできます。

弊社マイコンテンプレートを活用すると、

  • サンプルソフトの組込みが簡単な、テンプレート獲得
  • 処理単体/結合デバッグが簡単で部品化も容易な、RAMを使った処理インタフェースの獲得

ができますので、上級者との差分を誰でも補えます。

サンプルソフトの選出

何回かサンプルソフトを読むと、より明確な対象動作が選べるようになります。逆に、サンプルソフトが見当たらない時は、絞り込みが不完全、または対象が間違っていると言えます。初めに全てのサンプルソフトをざっと眺めた後で、アプリをイメージするのも良い方法です。

但し、スイッチ入力処理は、注意が必要です。スイッチには、チャタリング対策が必須です。この対策は2つあり、1つがハードウエア、もう1つがソフトウエアの対策です。両者併用もあります。
個人的には、ハード対策の有無に関係なく、ソフト対策は必要と考えます。弊社シンプルテンプレートでチャタリング対策済みのスイッチ入力処理を添付しているのは、この理由からです。
チャタリングは、使用するスイッチでタイミングが異なりますので、対策済みサンプルをベンダは提供しにくいと思います。チャタリングに関しては、以前のブログ記事や、ネット検索すると、多くの情報がありますので、そちらも参照して下さい。

サンプルソフトの読み方

サンプルソフトは、「木を見て森を見ず」にならないように、細かいことは気(木?)にせずに、初期設定とループ処理の2つに分けて読みます。

初期設定は、コメントに注意し、周辺回路の使用方法が開発するアプリと同じがどうかを見極めます。同じなら、丸ごとそのままテンプレートへ流用します。異なる場合は、データシートなどで変更箇所を特定し、実際にサンプルに変更を加え、結果が正しく動作することを確認しておきます。

ループ処理は、無限ループで処理するものと、割込みで処理するものに大別できます。割込み処理は、基本的にそのままテンプレートへ流用します。
無限ループ処理は、何をトリガにアプリを起動しているかが解れば十分です。多くの場合、フラグポーリングやカウンタなどです。この起動トリガで関数化し、テンプレートへ組込みます。

テンプレートの狙い:複数サンプルソフト流用

よほどの上級者やツワモノを除けば、アプリ開発は、サンプルソフトの流用が王道です。敢えてリスクをおかしてサンプルソフト以外の方法でマイコンを動かす必要はないからです。ベンダサンプルは、典型的動作ですので、先のスイッチ処理の例外を除くと、流用可能なものが多いのも理由です。

但し、サンンプソフトは、1個の周辺回路の動作説明が主なので、実際のアプリで必要となる複数の周辺回路を組合せる記述はありません。これが、開発者毎に手法が異なる原因です。弊社テンプレートは、これに対して1つの解を提供します。

弊社マイコンテンプレートは、サンプル処理の流用が簡単で、複数サンプル処理を組込むのも容易です。従って、サンプルを活かした動くアプリの早期開発ができます。また、本テンプレートを用いれば、開発者毎で異なる開発手法を統一でき、可読性や流用性も高まります。次回、後半で詳細を説明します。

アプリケーション開発手順1~3のまとめ

  • 細かい単位の対象動作サンプルソフトを見つけ、初期設定とループ処理の2つに分けて読む
  • サンプルソフトを部品と見なし、複数部品の組合せでアプリケーションを開発
  • サンプルソフト獲得方法は、ベンダサイト、RADツールがある

次回は、手順4の部品化したサンプルソフトのテンプレートへの組込みとデバッグ、複数サンプルが同時に動くしくみを説明します。

 

補足:チューニングとマイコン性能

アプリケーション開発で最も厄介なのは、実はチューニングです。

アプリに最適なマイコンを選定していれば、一部アセンブラ化などのチューニングなしで動くアプリができます。しかし、この選定失敗、もしくは、選定マイコンが古いのにアプリ追加などで、性能を絞り出す場合などの、最後の手段としてチューニングもありえます。
但し、苦労してチューニングしても、トラブルフリーの経験がないので、絶対に避けるべきだと思います。結局、高性能マイコンへの置換えという結果になります。

では、マイコン性能はどの程度が正解でしょうか? マイコンでシステムを制御する場合、通常アプリ以外の処理ソフト、例えば、ハード/ソフトの出荷時のセルフテストや、入力が一定時間ない時のデモンストレーション表示なども必要です(自動販売機などでおなじみですね)。ここでは、これらソフトを「システム運用ソフト」と呼びます。

これらシステム運用ソフトは、通常アプリ動作中には、並列処理をしませんので、消費するのはROM/RAMです。ソフト開発者は、ROM/RAM量を見積もる時に、これら通常動作には現れないシステム運用ソフトも考慮する必要があります。経験では、通常アプリと同程度、つまりトータル2倍のROM/RAMは必要と思います。

また、必要となるマイコン性能は、通常アプリと、上の例で示したようなシステム運用ソフトの両方で考慮すべきです。処理能力に十分な余裕がないと、再現性のない取れにくいバグ発生のリスクも高まります。この処理能力も、2倍程度の余裕が必要だと思います。

ハードウエア設計の「ディレーティング50%」と同様、2倍の余裕がマイコン設計には必要と思います。

LPCXpresso824-MAXでデバッガ接続NG時の回復方法

スイッチマトリクス:SWMを持つLPC8xxは、入出力ポートとマイコン周辺回路信号を柔軟に設定できる特徴があります。しかし、デバッグに重要なSWDIO/SWCLK信号の誤ったポート割付けなどが原因で、下図に示すLPCXpresso IDEデバッガと接続できないエラーが発生します。今回は、この対処方法を示します。

LPCXpresso824-MAX as not debuggable
デバッガ接続できないLPCXpresso824-MAX

LPC810対処

トラ技2014年2月号p85に、LPC810の同様問題への対処方法が掲載されています。SWMをもつマイコン特有の問題かもしれません。

LPCXpresso824-MAX対処

私の場合は、SWMとは関係のないLPCXpresso824-MAXのシステムクロック周波数を変更するプログラムでこの現象が発生しました。このエラーが発生すると、mbedプログラミングもできなくなります。因みに、mbedのファームウエアは、最新版Version0221 2015/03/03です。回復するまでは、LPC824への変更ができない状態となります。

この状態からの回復手順は、以下です。

  1. 念のため、mbedサイトを参照し、mbedファームウエアを最新版に更新完了しておく
  2. LPCXpresso824-MAXをパソコンと接続後、ボードのISPボタン押下げ後、リセットボタンを押す。リセットボタンを放し、最後にISPボタンを放す(→ ISPモードでデフォルトピン割付に回復)
  3. LPCXpresso824-MAXとパソコンを再接続し、LPCXpresso IDEを起動
  4. LPCXpresso IDEのProgram Flashアイコンをクリックし、Mass eraseを実行(原因プログラム消去)
Program Flash実行で回復
Program Flash実行で回復

今回の原因が、SWMに起因するか、または、main実行前に設定すべきシステムクロック周波数変更を、誤ってmain実行後に行ったことに起因するかは不明ですが、同じプログラムで現象が再現しますし、上記手順で回復しました。
LPCXpresso824-MAXとLPCXpresso IDEのデバッガ接続ができない時は、ご参考ください。

LPCXpreeso824-MAXのCMSIS-DAP使用法

今回は、次期マイコンテンプレートのLPCXpresso824-MAXボードを、無償IDEのLPCXpressoで動作させる方法を示します。無償IDEでも、ROM 256KBまで開発できますので、LPC8xxには十分です。
LPCXpressoのインストールからアクティベーションの方法などは、トラ技サイトを参照してください。ここでは、LPCXpresso824-MAXボードとインスト済みのLPCXpresso IDEの設定を解説します。

LPCXpresso824-MAX and LPCXpresso IDE
LPCXpresso824-MAXとLPCXpresso IDE

mbed動作のLPCXpreeso824-MAX

LPCXpresso824-MAXボードは、mbed動作がデフォルトです。つまり、ボードとパソコンを接続すると、USBメモリとして認識され、このUSBメモリへmbedネット環境で作成したオブジェクトをダウンロードしさえすれば、LPC824が動きます。この時に必要なツールは、ネットアクセスのブラウザのみです。

このように手軽にネットでオブジェクトが作成できるのがmbedの利点です。しかし、デバッグ環境としては、今後の進展を待つ必要があります。効率的なデバッグを行うには、IDEデバッガは必須です。

mbed動作からCMSIS-DAPへの変更

ボードユーザマニュアルUM108304~5章にも方法が書かれていますが、要点を示します。この手順で、オブジェクト作成とLPCXpresso IDEデバッグができるローカル環境が整います。
1.mbed-windows-serial-portドライバをWindowsパソコンへインストール
2.LPCOpenのLPC824用サンプルプロジェクトv2.15 Release Date:01/08/2015をダウンロードし、LPCXpressoへインポート
※2015年3月最新版LPCXpresso v7.6.2_326をインスト済みならば、C:\nxp\LPCXpresso_7.6.2_326\lpcxpresso\Examples\LPCOpenフォルダ内に同じサンプルがあるので、ここからインポートしても良い。
3.periph_hello_worldプロジェクトをビルドし、デバッガ起動。起動時、下図CMSIS-DAP認識要

CMSIS-DAP認識
CMSIS-DAP認識

4.Tera Termなどのシリアル通信ソフトを1でインストしたmbed Serial Portと接続(115200bps, 8-Non-1)
5.デバッガでResume (F8)実行。シリアル通信ソフトのTerm画面にHello World!が2秒毎に表示

Hello world!表示とCMSIS-DAP、USB Com LEDs
Hello world!表示とCMSIS-DAP、USB Com LEDs

この時、ボードCMSIS-DAP LED緑が点灯し、シリアル通信時にUSB Com LED青が点灯します。これがCMSIS-DAP (Cortex Microcontroller Software Interface Standard – Debug Access Port) デバッグ状態のボードです。CMSIS-DAP認識は、プロジェクトデバッグ初回のみで、次回起動時はありません。

LPCOpenライブラリ

2でインポートしたLPCOpenは、LPCXpresso以外のKeilやIAR開発環境でも同じAPIを提供するなど、適用範囲が広く、可読性も優れたライブラリです。また、3で使用したperiph_hello_world プロジェクトを含め、LPC824周辺回路30種以上のサンプルソフトも付属しています。

mbed環境も多くのサンプルソフトがありますが、NXPのLPCOpenサンプルソフトは高品質で、NXP Forumサイトで情報共有もできます。

販売中のLPC812用テンプレートと同じく、LPC824用テンプレートもこのLPCOpenライブラリを使って開発します。

LPCXpresso824-MAXボードの留意点

LPCXpresso812やLPCXpresso1114/5ボードは、パソコンとの接続に一般的なUSBケーブルを使います。しかし、LPCXpresso824-MAXの接続には、スマートフォンの充電、データ転送に使われるMicro-USBケーブルが必要です。このケーブルは、ボードに付属していませんので別途必要です。

2でインポートした最新のLPCOpenライブラリv2.15は、LPCXpresso v7.5.0以降で動作確認されています。古い版使用時は、v7.5.0以降へ更新が必要です。
※私のパソコンのみの可能性もありますが、Windows8.1(無印)でLPCOpenライブラリをビルドすると本来発生しないハズのエラーが発生します(互換モード変更でも同じ)。Windows8.1ProとWindows7ではこの問題は発生しません(いずれも64bit版)。同じ現象の方は、Windows8.1 ProかWindows7のご使用をお勧めします。

LPC824向けLPC82xテンプレート開発着手

次期マイコンテンプレートの3候補マイコン、NXP LPC824、Freescale Kinetis L、ルネサスRL78/I1Dのうち、LPC824とmX-BaseBoardとの接続方法について検討します。

IoT向きマイコンの要件

2015年1月~2月の集中調査の結果、IoT向きのマイコンは、以下の要件を持ちます。
・バッテリ駆動可能な動作電圧(1.8~3.6V)
・12ビットADC
・DMA/DTCと省電力動作モード
・低価格(¥500以下目安)
3マイコンは、いずれも要件を満たしており、2015年3月現在のマイコンと評価ボードの価格は下記です。

マイコン
(パッケージ)
価格(入手先) 評価ボード(価格、入手先)
LPC824 (32HVQFN) ¥259(DigiKey) LPCXpresso824-MAX(¥2800、秋月電子)
Kinetis L04 (48LQFP) ¥220(チップワン) FRDM-KL05Z (¥1747、DigiKey)
RL78/I1D (48LQFP) ¥430(マルツオンライン) RTE5117GC0TGB00000R(価格不明)

 

IoT向き省電力マイコンテンプレート開発着手

ルネサスRL78/I1D評価ボードは、現在、個人入手できませんので、価格不明です。
NXPとFreescaleは、合併の結果現状のARM Cortex-M0+マイコンの供給状況が変わる可能性もあり、リスクが少ないRL78/I1Dから着手したいのですが、上記のように評価ボードが入手不可で、同じS3コアのRL78/G14ともピンコンパチではないため基板流用もできません

そこで、発売日が新しいLPC824から省電力マイコンテンプレート開発に着手します。CPUボードと周辺回路が実装済みのmX-Base Board(後述)の両方が、秋月電子から簡単に入手できることも理由です。

LPCXpresso824-MAXとmX-Base Boardの接続

LPCXpresso824-MAXは、mbedとしても動作するCPUボードです。販売中テンプレートのLPC812やLPC1114では、制御系ボードとするため、mX-Base Boardと接続して動作させましたので、LPC824でもこのmX-Base Boardを使います。

LPCXpresso824-MAXは、BaseBoardとArduinoの両方のコネクタを持っています。しかし、BaseBoardコネクタを使う場合、mX-Base BoardのEthernetコネクタが接触して直接装着ができません。

LPCXpresso824-MAXとmX Base Board接続(BaseBoardコネクタ利用)
LPCXpresso824-MAXとmX Base Board接続(BaseBoardコネクタ利用)

そこで、もう一方のArduinoコネクタを使いmX-Base Boardと下図のように配線します。

LPCXpresso824-MAXとmX Base Board接続(Arduinoコネクタ利用)
LPCXpresso824-MAXとmX Base Board接続(Arduinoコネクタ利用)

これで、BaseBoard実装のLCD、リセットボタン、外部SW、ブザー、ポテンショメータ、EEPROMをLPCXpresso824-MAXから制御できます。

LPC8xxテンプレートV2.1をメジャーアップデートしV3リリース

従来LPC8xxテンプレートV2.1(2015/01/20更新)に、新たにこのLPCXpresso824-MAX向けの省電力テンプレートを追加し、合わせてLPC8xxテンプレートV3とする予定です。

これにより、NXPのLPC800シリーズマイコンへの弊社LPC8xxテンプレート対応は下表となります。

対象マイコン 推薦制御系ボード 対応テンプレート
LPC824 LPCXpresso824-MAX + mX Base Board LPC82xテンプレート(2015/04発売予定)
・シンプルテンプレート
・メニュードリブンテンプレート
・省電力テンプレート
LPC822
LPC812 LPCXpresso812 + mX Base Board LPC81xテンプレート(2015/01/20 V2.1)
・シンプルテンプレート
・メニュードリブンテンプレート
LPC811
LPC810

 

※シンプル/メニュードリブン/省電力テンプレートとは、弊社テンプレートの適用例を示すためのアプリケーションソフトです。
例えば、シンプルテンプレートは、テンプレートにチャタリング対応済みのSW入力とLED出力の2処理を追加した例で、テンプレートの所定位置に、所望処理を追加すれば、だれでも簡単にアプリケーションが完成することを示す目的で作成しております。詳細は、マイコンテンプレートサイトをご覧ください。