RL78/G1xテンプレートの移植(その1)

Version2のRL78/G1xテンプレートは、4種の市販ボードに対応しますので、テンプレートとボード動作の確認がすぐにできます。今回は、この4種対応ボード以外のボードに、テンプレートを移植する例を示します。本テンプレートを、お客様開発のボードへportingする際に参考になることを狙っています。内容が複雑で分量も多いので、3回に分けて解説します。

移植ボード選定

第1回目は、ボード選定です。RL78/G1xの発売以降、典型的な市販ボードは、テンプレートでサポート済みです。そこで、お客様開発ボードの代わりに選んだボードは、インドNGX Technologies社のBlueBoard-RL78/G13_30pin-Hです。格安で、E1インタフェース、UART、LED、ブザーなどの周辺ハードが実装済みです。日本でも秋月電子通販から2400円で購入できます。このボードを「仮想お客様開発ボード」とし、テンプレートを移植します。

BlueBlardRL78G13_30pin-H
BlueBoard-RL78/G13_30pin-H(秋月電子通商HPより抜粋)

RL78/G14ボードへの移植

今回porting対象に選んだボードのマイコンは、RL78/G13:ROM:48KB_30pinです。因みに、RL78/G14:ROM48KB_30pin実装ボードも同じボード回路で、違いはマイコンのみ、ピン割付も同じです(詳しくは、NGX Technologies社のHPを参照)。従って、テンプレートをBlueBoard-RL78/G14_30pin-Hへ移植する場合も、ここで示す方法がそのまま使えます。

ボード付属ソフトやアプリケーションノートソフトの問題点

市販ボードには、ボードをテストするプログラムが付属しますが、あくまでハードテストが主眼です。また、RL78のサンプルプログラムやアプリケーションノートのプログラムは、動作ボードを特定せず、単一機能の実装例が主眼です。これらに対して、実用プログラムは、複数機能で各機能がシステムとして上手く動作する必要があるので、ボード付属ソフトやアプリケーションノートのソフトを、そのまま実用版へ流用したくても、中途半端で役立ちません。RL78/G1xテンプレートは、この両者の隙間を埋めるのが役目です。実用プログラムとしてそのまま使えるひな型を目指しています(テンプレートに対する皆様のご意見、ご要望などが御座いましたらお気軽にinfo@happytech.jpへお寄せ下さい)。

では次回から、RL78/G1xテンプレートの移植方法を示します。

マイコン入力処理ソフト

マイコンは、入力データを基に、データを出力する装置です。今回は、入力データのソフト処理について考えます。

入力データには、「ノイズ」が付き物です。例えば、スイッチ入力であれば、チャタリング、AD変換入力であれば、アナログノイズなどです。これらには、ハード的なノイズ対策が行われます。しかし、マイコンに取込むのは最終的にはソフトなので、ソフトの入力ノイズ対策は必須です。

スイッチ入力のソフトノイズ対策

スイッチのチャタリングは、使用するスイッチハードによってチャタリング時間が変わります。タクトSWやトグルSWの場合は、数ms~10ms程度と言われます。スイッチ入力のソフト処理は、入力データをスキャンして、「High」か「Low」のデータ値が連続したらチャタリングが終わった確定データとします。問題は、データスキャン間隔と連続値の比較回数です。スキャン間隔が広く比較回数が多ければ、確定までの時間が掛ります。と、ここまでは、教科書に記載されています。しかし、肝心のソフト調整の記載は少ないようです。

スイッチ入力は、実際のスイッチハードを人が操作して確定データを調整する必要があります。調整ポイントは、スキャン間隔と比較回数です。これらを簡単に調整/変更できるソフトが優れたソフトです。いろいろ方法があるでしょうが、シンプルな方法は、「スイッチスキャン処理を1つの関数として作成し、この関数の実行タイミングをメイン関数で変更する方法」です。これなら、スイッチハードが無い時はシミュレーションでソフト単体のデバッグができますし、ハードが用意できた後は、単体デバッグ済みソフトとスイッチハードを結合してデバッグします。結合デバッグは、メイン関数のスイッチスキャン処理実行タイミングだけを変えて、スイッチハード操作データが正確に取得できるタイミングを探すだけですので簡単です。

このように、ソフトは、ハード無しの状態で単体デバッグができ、かつ、ハード結合デバッグの調整も簡単にできる作りが望ましいのです。この調整を開発の初期段階でどの程度意識したかにより、可搬性の良いソフトができます。

スイッチスキャン処理ソフトの例(2回スキャンデータ一致で入力データ確定)
スイッチスキャン処理ソフトの例(2回スキャンデータ一致で入力データ確定)

多くの教科書やサンプルソフトは、メイン無限ループからサンプル処理を起動します。これは、サンプル処理の説明に重点を置いているのでしょうがないのです。しかし、ハード結合調整まで考えると、ここで示した方法のように、無限ループからの起動よりも、起動タイミングを変えられるメイン関数の方が良いことが判ります。

販売中のRL78/G1xテンプレートは、1ms/10ms/100ms/1s/無限ループの5種類のアプリ起動タイミングを提供します。特に入力ソフト処理には、このタイミングを変えられることが、ノイズ対策やハード依存性を少なくすることに効果的です。タクトSWでは、10ms間隔のスイッチスキャン関数起動と2回スキャンデータ一致により、操作データが正確に取得できました。また、AD変換の例としては、ポテンショメータのAD変換データスキャン関数は、100ms間隔起動と2回スキャンデータ一致によりデータ入力ができました。同じAD変換ソフトで、室温などの変化が緩やかなAD変換入力なら、スキャン間隔を1sにすれば対応できます。

販売中のG1xテンプレートのアプリ起動処理(テンプレートから一部抜粋)
販売中のG1xテンプレートのアプリ起動処理(テンプレートから一部抜粋)

RL78/G14 ハードウエア編ユーザーズマニュアル改編

RL78/G14のハードウエア編ユーザーズマニュアルが、Rev. 2.00へ改編されました。

付録Aの改訂履歴をみると、記述が整理されリファインされた感じがします。例えば、P91の未使用端子の処理表などです。出力未使用端子は、オープンのまま、入力未使用端子は、個別に抵抗を接続して、VddかVssへ接続することが判ります。

但し、P60/SCLA0、P61/SDAA0のI2C関連ポートの未使用時は、出力ラッチ設定後、抵抗を接続してVddかVssへの接続が必要です。販売中のRl78/G1xテンプレートは、これらをLED出力ポートとして使用中ですので、安心です。テンプレートご活用中の皆様は、未使用に変更の場合には、上記ユーザーズマニュアルを参照して適切な処理を行ってください。

コード生成ひな型出力とユーザ追加ソースファイルの分離メリット

CubeSuite+のコード生成は、マイコン周辺機能を制御する「デバイス・ドライバ」と「ひな型ソース」を出力します。ユーザは、このデバイス・ドライバをAPI関数としてコールする処理をひな型へ追加すれば、所望動作プログラムが完成します。今回は、このひな型とユーザが追加する処理を分離すると、マイコン依存性が少なくなり、移植性が高まることを示します。

コード生成の「端子割当て設定」は、はじめに必ず設定する必要があることは、以前示しました。そこで、この端子割当てのみを設定し、後は何もせずにコード生成(G)をクリックすると、10個のファイルが生成されます(「r_」は、ルネサス、「r_cg_」は、コード生成が作成したことを意味すると思います)。

コード生成出力ファイル
コード生成出力ファイル

1~4がひな型、5~10がデバイス・ドライバです。クロック発生回路とウオッチドック・タイマは、デフォルトで利用する周辺回路です。ユーザが使う周辺回路をコード生成のGUIで設定すれば、それに応じてr_cg_周辺回路.c、r_cd_周辺回路_user.c、r_cg_周辺回路.hの3ファイルがこれらに追加されます。

r_systeminit.cは、周辺回路の初期設定が生成されていて、r_main.cの実行前にスタートアップで処理されます。r_cg_macrodrive.hは、システム定義のマクロで、r_cg_userdefine.hは、中身なしのスケルトンです。必要に応じて、ここにユーザ定義を追加すれば、全ファイルに自動的にインクルードされます。

起動処理のr_main.c中身を示します。R_MAIN_UserInit()でメイン無限ループ実行前のユーザ追加処理があれば追記し、なければそのまま割込み許可EI()した後、メイン無限ループに入ります。通常は、この無限ループにユーザが処理を書き加えます。

何らかの都合で、コード再生成した場合にも、/* Start user…*/と/* End user…*/の間に書き加えた処理は、そのままコード再生成出力ファイルにマージされますので、追加分は、保持されます。これが、コード生成の一般的な使い方です。この場合は、ユーザ追加処理は、コード生成ファイル内に入ります。

r_main.cの中身
r_main.cの中身

提案は、このユーザ追加処理とコード生成のひな型を分離し、別ファイルにすることです。メイン無限ループにuser_main()を付け加えた例で説明します。user_main();は、別ファイルmain.c内に作成します(「r_」が無いので自作ファイルであることが判ります)。

このmain.cファイル内のuser_main()でコード生成出力のAPI関数を使うので、使用するr_cg_周辺回路.hをインクルードする必要がありますが、user_main()は、多数のAPI関数のコールを使う単純なプログラムとなります。API関数名は、R_CGC_Set_CRCOn ();などのように長い記述になりますが、その分、ソース可読性は向上します。また、RL78/G13とRL78/G14で周辺回路のハードが異なるものがあっても、API関数名は同じものがコード生成されるので、制御するユーザ側は、同じものが使えます。

このように、コード生成出力のひな型とユーザ追加処理を分離すると、移植性が良くなります。最近のマイコン統合開発環境は、CubeSuite+のようにAPI関数を自動生成するものが増えてきました。この場合も、API関数名は、同じか、または近い意味のものが生成されますので、ユーザが追加した処理ファイルがそのまま使える可能性が高まります。API関数を使う側と、API関数を生成する側を分離すると、マイコンの製品依存性も少なることが判ります。

 

販売中のG1xテンプレートは、この考え方で開発しました。RL78/G13とG14で共通に使えます。他シリーズは試していませんが、使えると思います。また、他社製品、例えばARM Cortex-Mマイコンなどにも適用してみたいと考えています。

RL78コンパイラコーステキスト要旨(3回目)

RL78コンパイラコーステキスト、2013年5月22日Rev.1.06版の要旨、最後の3回目は、コンパイラ設定です。

コンパイラは、ユーザ記述ソースからロードモジュールを作成します。この時、使用するマイコンに応じて、いろいろなコンパイル・オプションの設定が必要になります。このオプション設定がまずいと、「良いモジュール」ができないからです。もう1つ記述時に重要なことは、ソースプログラムの書き方です。

コンパイラ設定の要旨

本対象マイコンでは、コンパイル・オプションのメモリ・モデルを、「スモール・モデルに設定」することが必要です。デフォルトが、ミディアム。モデルになっているからです。

CubeSuite+は、良いモジュールを作るために9個のコンパイル・オプションを組合せて、標準、サイズ優先、速度優先、詳細設定、いいえの5種類の作成方法(最適化)を予め用意しています。オプションと最適化の関係は、以下になります(テキストの抜粋表に追記)。

コンパイル・オプション設定

最適化の種類

標準 サイズ優先 速度優先 詳細設定 いいえ
1 演算式の実行順序入替え

×

2 自動変数をレジスタまたはsaddr領域に割当

×

3 レジスタ変数をレジスタに加えsaddr領域に割当

×

×

×

×

4 char演算の符号拡張なし

×

5 char型をunsigned charとみなす

×

×

×

×

6 分岐命令を最適化

×

7 定型コードをライブラリに置換え

×

×

8 相対分岐でswitch分岐テーブル生成

×

×

×

×

9 デバックに適した最適化

×

×

×

×

◎:強力に実施、○:実施、×:実施なし、△:カスタム(自由設定)

最も標準的なオプション設定の組合せが「標準」で、デフォルトになっています。サイズと速度ともに効果がある1、2、4、6オプションなどは、○:実施に設定です。「標準」、「サイズ優先」と「速度優先」の差は、オプション7の定型コードをライブラリに置換えるか否かのみです。つまり、「標準」でかなり最適なモジュール作成ができていて、さらにモジュールサイズを圧縮するなら「サイズ優先」、速度を上げるなら「速度優先」に変更すれば良いことが判ります。

「詳細設定」は、全オプションを自由に設定するモードで、この時のみ9個のコンパイル・オプションが画面表示されます。他の最適化の時は、個々のコンパイル・オプションは表示されません。「詳細設定」ではオプション設定が自由ですので、各オプションの差分評価などの用途と思われますが、サイズ大で速度も遅いモジュールが生成されたりもしますので、使うことはないでしょう。また、「いいえ」は、全オプションを設定しないモードで、これも使わないでしょう。

結局、最適化は、デフォルトの「標準」のままで良く、どうしてもサイズや速度を改善したい時は、「サイズ優先」か「速度優先」を選択します。但し、差分は、定型コードのライブラリ化のみで、記述ソースにもよりますが、効果は期待できないかもしれません。

オプション3のレジスタ変数をレジスタに加えsaddr領域に割当は、何の効果もないので設定不要、オプション8の相対分岐でswitch分岐テーブル生成は、対象マイコン外なので設定不要、オプション9のデバッグ最適化は、内容不明でした。

ソースプログラムの書き方要旨

オプション5のchar型をunsigned charとみなすは、ソースプログラムの書き方に関連します。RL78マイコンで使う整数型変数は、「符号なしの8ビットまたは16ビットが最も効率的」にコンパイルされます。型宣言にcharやint、shortのみを記述すると、デフォルトでは「符号つきのsigned変数」になります。このオプション設定で、char型変数は符号なしにみなされますが、int、shortはそのままです。対策は、「整数型宣言は、必ずsignedかunsigned を付け、符号の有無を明記する」ことです。

RL78マイコンの汎用レジスタは、16ビットです。従って、32ビットのlong変数は避け、「できる限り8ビットまたは16ビット変数を用いると、効率的」な結果が得られます。

#pragma以降のキーワード(例えば、EI、DI、NOP、HALTなど)は、大文字でも小文字でも記述可能ですが、関数内で使う時は、大文字記述時のみ有効なので、「大文字で統一」した方が混乱は避けられます。

呼出される関数にcalltを付けると、通常よりも短いコードで関数呼出しができます。つまり、サイズ優先の書き方です。但し、速度は遅くなります。calltが使える関数は、最大32個です。対象マイコンは、64KBの大容量ROMですので、この「callt記述を使う可能性は低い」と思います。

saddr領域とコンパイラ固定使用領域

第1回のRAMメモリマップで示したように、saddr領域とは、マイコンRAM内:FFE20~FFEB3の148バイトのことです。コンパイル・オプション2の自動変数をレジスタまたはsaddr領域に割当が、○:実施されていることから、最適化に有効な領域であることが判ります。

saddr:ショート・ダイレクト・アドレッシング領域は、8ビットコードでアクセスできるので、サイズ、速度ともに向上します。レジスタとほぼ同じと考えて良いでしょう。「標準」最適化で、コンパイラにより、関数内の自動変数はこのsaddr領域へ割付けられます。また、コンパイル・オプションのデータ制御項目で、static/外部変数をsaddr領域へ自動的に割付けることもできます。この自動割付けが嫌なら、ソース内でユーザが明示的にsregを付けた外部変数、関数内のstatic変数の割付けも可能です。非常に有用な領域で、RL78マイコンを使いこなす技を生むポイントですが、148バイトしかありません。148バイトを超えて使用すると、コンパイルエラーが発生します。

この少ないsaddr領域の対策として、コンパイラ固定使用領域:FFEB4~FFEDEの44バイトのうち、FFEB4~FFED3の32バイトをsaddr領域へ変更することができます。これで、合計148+32=180バイトがsaddrユーザ領域になります。但し、制限として、標準ライブラリのsetjmp、longjmp、sprintf、sscanf、printf、scanf、vprintf、vsprintf、ldiv関数を使わないことと、コンパイル・オプション3のレジスタ変数をレジスタに加えsaddr領域に割当てを、×:実施しないことが条件です。もちろん、「標準」最適化では、このオプションは、×:実施なしですので、printfなどの標準ライブラリ関数を使わなければ、条件を満たします。

CubeSuite+は強力なデバッグ・ツールを持ちますので、printfを使う機会は少ないと思います。ビルド・ツールの変数/配置オプションタグのROM/RAM使用量を、はい:表示へ変更すると、saddr領域の使用量も表示されますので、148バイトよりも大きくなった時は、コンパイラ固定使用領域をsaddr領域へ変更すれば、32バイトの追加ができます。

 

以上

3回にわたって、RL78コンパイラコーステキスト、2013年5月22日Rev.1.06版の要旨を解説しました。このテキストは、非常に有用な事項を記述していますので、ぜひ、ご自身で精読されることをお勧めします。セミナに参加すれば、記述内容だけでなく、その背景や行間/ページ間の意味、重要度などいろいろなことも把握できるでしょう。残念ながらテキストのみでは、書かれてないことは推測するしかありません。本要旨では、テキストの要旨だけでなく、いろいろ推測を加えた部分もあります。また、解説もコンパイラとリンカに絞り、対象マイコンも絞って説明しました。別側面からテキストを観た結果であり、ご参考になれば幸いです。

RL78コンパイラコーステキスト要旨(2回目)

RL78コンパイラコーステキスト、2013年5月22日Rev.1.06版の要旨、2回目の今回は、スタック設定です。

スタック設定の要旨

スタックとは、RAM内にある特別な領域のことです。関数の呼出し時に、最低限必要なデータを、このスタック領域へ積み重ねて一時保存し、呼出された関数の処理が終わったら、そのデータを使って呼出し側の関数へ戻ります。使い終わったデータは、積み重ねから取り除きますので、スタック領域は、関数呼出し毎に使用サイズが増えたり減ったりします。

最低限必要なデータとは、1.関数の引数で汎用レジスタに割り付かないもの、2.関数の戻り番地、3.使用する汎用レジスタの退避領域、4.関数の局所変数で汎用レジスタに割り付かないもの、5.コンパイラ処理上必要になったワーク領域、などです。

関数を呼ぶだけで、これらデータの一時保存や、このような複雑な処理をしているのです。しかも、関数呼出し経路や、割込み順位に応じて使用サイズが変わるので、最大スタックサイズを求めるのも大変です。しかし、CubeSuite+では、スタック見積もりツールが用意されていて、自動的に(コンパイラ設定でアセンブル・ファイル出力の「はい」変更は必要)関数毎の使用サイズが求まります。このツールを使えば、プログラマが意図した関数の呼び出し経路かどうかの確認もできます。

マイコンソフトの出荷時には、「必ずスタックサイズを求め、必要サイズ分を1回目で説明したリンク・ディレクティブを使って確保すること。この確保値は自動的に更新されないので、スタックサイズを反映させるのは、プログラマの責任」とテキストには明記されています。例えば、再帰呼出し関数などを使ってスタックが不足するような場合は、異常終了などを引き起こしますので、スタック領域の不足は避けなければなりません。テキストには、スタックサイズを削減する方法も記載されています。

では、出荷時前のデバッグ時はこのスタックサイズがどのように確保されているかというと、リンカがRAM領域の一番大きいGap(空き領域)を見つけ、自動的にスタック領域を確保しています。確保領域は、ビルド・ツール生成ファイル:*.symファイルの、@STBGN~@STEND間です。@STBGN>@STENDなので、スタック領域が上位アドレスから下位側へ使われることが判ります。一方、コンパイラ領域は、下位アドレスから上位側へ使われます。RAMに両方の領域が隣り合わせに配置されても、領域侵犯の可能性が少ない方法です。

対象マイコンのスタック領域確保の必要性

RAM 4KB/5.5KBの対象マイコンを、シングル・チップで動作させるシステムでは、ここで解説したスタック領域確保は不要と思います。スタック見積もりツール算出のスタックサイズよりも大きければ、リンカが確保する最大Gapの場所が、スタック領域としては最適で、リンカ任せでも大丈夫と考えるからです。

システム拡張/変更に対して内臓RAMの空きが少なくなりスタックサイズを削減する場合、リンカの代わりにプログラマ自身でセクション配置をする場合の方法として知っておけば十分でしょう。対象マイコンでRAM空き領域が少なくなった時には、経験上、このような対処療法より、より大容量RAMを持つ機種への変更の方が安全、かつ、費用対効果も高いのでお勧めです。

RL78コンパイラコーステキスト要旨(1回目)

RL78コンパイラコーステキスト、2013年5月22日Rev.1.06版の要旨を3回に分けて解説します。

このテキストは、 ルネサス半導体トレーニングセンターの2日間セミナ「RL78 コンパイラコース」用に作成されたもので、RL78/G14を対象に、コンパイラとリンカ、周辺機器、割込み処理という盛りだくさんの内容です。セミナ参加が困難な私のような地方技術者にとっては、テキスト公開だけでもありがたいです。テキスト内容が濃いので、初心者向けにここでは、リンカとコンパイラに絞って解説します。

今回はリンク・ディレクティブ、2回目は、スタック設定、これら2回がリンカ関連、3回目がコンパイラ関連です。入手が容易で、評価キットにも良く使われる以下2種マイコンの具体例を示します。

対象マイコン

  RAM容量 ROM容量 データ・フラッシュ容量
RL78/G13:S2コア

4KB

64KB

4KB

RL78/G14:S3コア

5.5KB

 

リンク・ディレクティブ要旨

先ず、リンカとコンパイラを簡単に説明します。コンパイラは、ユーザ作成のプログラムを、変数や定数、プログラムコードなどの「種類別に1つのかたまり」にまとめ、リンカに渡すロードモジュールを作成します。この「かたまりをセクション」と呼び、変数のかたまりをデータセクション、プログラムコードのかたまりをコードセクションなどと呼びます。リンカは、コンパイラが作成した各セクションのロードモジュールを、マイコンのROMやRAMに割付け、オブジェクトを生成します。今回と次回は、このリンカ関連の説明です。

リンク・ディレクティブとは、リンカへのセクション単位の「追加ユーザ割付指示ファイル」のことです。「ユーザ」とわざわざ但し書きしたのは、CuiteSuite+のデフォルトのリンク・ディレクティブ:r_lk.drは、別のところ(場所は不明)にあり、このデフォルト指示に従ってリンクすれば、問題なくオブジェクトが生成できるからです。このため、CubeSuite+のプロジェクト・ツリーには、r_lk.drが表示されません。ユーザが指示を追加する場合は、「追加分のみを記述した」user.drを作成し、プロジェクト・ツリーに追加します。

追加ユーザ指示が必要になるのは、1.スタック領域の設定、2.saddr領域拡張の設定、3.データ・フラッシュ使用時、専用ライブラリ使用領域の確保、の3つの場合です。1と2については、2回目以降にそれぞれ解説します。

3のデータ・フラッシュは、RL78ファミリマイコンならば実装済みの周辺機能です。RL78/G13にはデータ・フラッシュ無しのデバイスもありますが、電源なしでもデータ保持ができる一種のROMです。プログラムで書き換えができるのでRAMでもあり、重要なパラメタなどを記録するのに便利な機能です。

データ・フラシュを使うには、ルネサス提供の専用ライブラリ:データ・フラッシュ・ライブラリ  Type04 Ver.1.05が必要で、このライブラリ動作のためにRL78/G13ならFEF00h ~ FF2FFh、RL78/G14ならFE900h ~ FECFFhのRAM下位アドレスから1KBを専有します。さらに、データ・フラッシュ利用に関係なくRAM上位アドレスは、汎用レジスタ、コンパイラ固定使用領域、saddr領域が合計で224バイトを専有します。そのため、RL78/G13とRL78/G14の全RAM容量から、これらの専有領域を引いた残りの2848/B20hバイトと4384/1120hバイトが、コンパイラにとって自由に使えるコンパイラ領域になります。つまり、ユーザ作成プログラムの変数などは、コンパイラがデータセクションにまとめ、リンカがこのRAM領域へ配置します。

RAMメモリマップ RL78/G13 RAM4KB(右)とRL78/G14 RAM5.5KB(左)
RAMメモリマップ RL78/G13 RAM4KB(右)とRL78/G14 RAM5.5KB(左)

従って、データ・フラッシュ利用時は、ユーザが、追加リンク・ディレクティブで、このことを追記する必要があります。データ・フラッシュ実装マイコンでも、これを使う/使わないはユーザまかせですので、使わない場合をデフォルトとして記述がないからです。このユーザ追記は、以下のようになります。

【 データ・フラッシュ利用時の追記リンク・ディレクティブ 】

MEMORY RAM : ( 0FF300H, 000AA0H ) ; RL78/G13 RAM4KB、ROM64KB、データ・フラシュ4KB

MEMORY RAM : ( 0FFD00H, 001020H ) ; RL78/G14 RAM5.5KB、ROM64KB、データ・フラシュ4KB

但し、上記は、さらにSTACK領域に128/256バイトを割当てた例で、これをuser.drファイルとしてプロジェクト・ツリーへ追加すれば、データ・フラッシュ・ライブラリが使えるようになります。

テンプレート使用法(2):分析とテンプレート組込み

第2回は、LCDアプリ分析とテンプレートへの追加方法の説明です。

ドライバとアプリ分離:先ず、LCD制御ソフトを、ドライバ処理とアプリケーション処理(以後アプリ処理と略す)に分けて考えます。ドライバ処理とは、制御対象がLCDコントローラのソフトです。アプリ処理は、ドライバ処理を使ってLCDに出力する文字列を設定するソフトのことです。

LCDドライバ処理:LCD表示を行うには、マイコンピン初期設定、LCDコントローラのパワーオン処理、LCDコントローラ初期設定、LCD表示データ書込みの4種の処理が必要です。そこで、各処理をそれぞれ関数化し、条件によりこの4ドライバ関数に分岐します。これらのドライバ処理をテンプレートへ組込むと、下図(左側)のようになります。

LCDアプリ処理:ドライバ処理で準備が完了したLCDコントローラに対して、LCDで表示する文字列を設定する関数です。コンローラ準備完了判断や、通常表示と、エラーを表示する場合などの条件で分離することを考慮すると、下図(右側)のようになります。

ポータル関数の構成
ポータル関数の構成

ドライバ処理もアプリ処理も、テンプレートへ組み込む形は同じです。ポータル関数でインタフェースRAMの値によって条件分離し、各イベント処理を実行します。各イベント処理後にインタフェースRAM値を変更し、次回の条件分岐に備えます。

インタフェースRAM:関数間の変数をRAMに展開したものをインタフェースRAMと呼びます。RL78/G13やG14には、アクセス頻度が高い変数は、ショート・ダイレクト・アドレッシングsreg領域(FFE20~FFEB3 の147バイト)へ配置すると高速化が図れます。引数で記述する場合に比べ、関数単体デバックが簡単になるメリットがあります。

処理が遅い周辺回路の対処:最近のマイコンは高速動作です。しかし、LCDコントローラなどの周辺回路は、マイコン動作に比べ、とても遅いという問題があります。この遅さに対して、マイコンのポーリングや割込みを使う方法で解決できます。しかし、今回のLCD接続は、リード動作ができないので、これらは使えません。第2の方法は、周辺回路動作完了まで、マイコン側の処理に待ち時間を入れる方法です。サンプルプログラムなどでは、この方法を多く用います。マイコン処理は簡単ですが、無駄に時間を消費しますので、高速マイコンに効果的な方法とは言えません。

第3の方法が、タイムシェアリングを使う方法です。周辺回路の動作を設定した後は、マイコンに別処理を行わせ、周辺回路の処理が完了したころを見計らってさらに追加処理をする方法です。第2の方法より、効率的にマイコンを使えますが、処理完了のころあいを見積もることが大切です。見積もりが上手くいけば、多重処理ができるので、高速マイコンの特長を活かせたソフトができます。リアルタイムOSも、簡単に言うとこの方法を使っています。プログラマの処理完了の見極めが不要で、タスク切換えをOSが行ってくれます。が、それなりの大容量RAMが必要で、4MB程度のRAMでは足りませんし、使いこなしの知識や経験も必要です。また、無料OSもありますが、有料版はコストアップになります。

タイムシェア間隔固定:提供テンプレートは、タイムシェアリング間隔が、予め決まっています。ドライバ処理起動用に、250ms/1ms/10ms/100ms/1s、アプリ処理起動用には、1ms/10ms/100ms/1sです。つまり、この間隔で、遅い周辺回路の処理完了を見積もって、割り振れば良い訳です。間隔が決まっていますので、リアルタイムOSよりは効率が下がりますが、オーバーヘッドは少なくなります。

LCDコントローラの場合は、パワーオン処理に5ms、表示クリアに1.64ms、その他の処理に40us(いずれも最大値)が必要です。そこで、ドライバ処理のポータル関数は10ms間隔、アプリ処理のポータル関数は1s間隔に割り振りました。40usの処理待ちは、タイムシェアリングせずに、時間消費で対応しました。テンプレートに組込んだドライバポータル関数を下図に示します。

テンプレートへ組込んだドライバポータル関数
テンプレートへ組込んだドライバポータル関数

リアルタイムOSに比べれば効率が低下しますが、テンプレートは、少ないRAM使用量で、高速マイコンの特徴を活かした多重処理を、簡単に実現できることが判ると思います。

テンプレート使用法(1):追加アプリとハード構成

今回から数回に分けて販売中のG1xTemplateの使用方法、すなわちアプリ追加の方法を説明します。

第1回は、追加するアプリ選択とハード構成です。

追加アプリ:追加するアプリは、LCD表示アプリとします。実は、このアプリは、G1xTempleteに既に組込み済みです。組込み済みのアプリを例とした方が、組込み結果が判りやすいのためです。別アプリを追加する場合にも、今回と同様の手順と方法が使えます。

ハード構成:LCDは、雑誌などでおなじみの、16文字x2行表示キャラクタディスプレイ、HD44780互換品、秋月電子などで入手容易なものです。LCDとRL78/G13との接続方法も、最も一般的な、3制御+上位4ビットデータの7本インタフェースとします。このハード構成を下図に示します。

LCDハードウエア構成とRL78G13スタータキット実装例
LCDハードウエア構成とRL78G13スタータキット実装例

LCDはライト動作のみで、リードは行いませんのでLCD_RWは、LOW固定です。従って、マイコンに比べ動作が遅いLCDコントローラの処理終了の検出方法には、ポーリングや割込みは使いません