Bluetooth 5.0対応のIoT向けマイコンPSoC 6発表

3月14日のEE Times Japanに“Cypress、低消費でより強固なセキュリティ実現”という記事が掲載されました。この記事から、2017/4Q(10月~12月)量産予定のCypressの新しいIoT MCU、PSoC 6の特徴をまとめました。

PSoC 6の特徴

  • Cortex-M4+Cortex-M0+ のデュアルARMコア
  • プロセス技術にウルトラローパワー40nm SONOS採用(従来は130nm)した結果、Cortex-M0+:15uA/MHz、Cortex-M4:22uA/MHz、ローパワーモード動作電圧:1.1V、ウルトラローパワーモード動作電圧:0.9Vを実現。消費電流は、下表参照。
PSoC 6 Current consumption
PSoC 6 Current consumption(記事より)
  • ハードウエアでのセキュア データストレージ機能を備えたTEE : Trust Execution Environment実装
  • 暗号化アルゴリズム:楕円曲線暗号(ECC)、AES(Advanced Encryption Standard)、ハッシュ(SHA-1/2/3)ハードウエア実装
  • Bluetooth Low Energy 5.0対応
  • 評価ボード:PRoC 6 BLE Pioneer Kit(CY8CKIT-062-BLE)は75米ドル。
    弊社マイコンテンプレート使用中のPRoC 4 BLE Pioneer Kit (CY8CKIT-042-BLE)は49米ドルです、ディアルコアを考慮するとお買い得?

ハードによるセキュリティ機能はIoT MCUに必須

IoTマイコンにARMコアを使う場合、新しいCortex-M23/33コアによるアプローチと、従来コアにTEEなどのセキュリティ機能を付加したアプローチの2つがありそうです。CypressのPSoC 6は、後者です。

いずれも、ハッキングやウイルス対策に、ハードによるセキュリティ対策は必須です。私個人の感触では、どの程度の処理を MCUで行うかにもよりますが、たとえ専用セキュリティハードを追加したとしても、Cortex-M0/M0+/M23クラスの処理能力では、IoT通信制御だけでも重すぎるのではないかと思います。

そこで、より能力の高いCortex-M33やCortex-M3、M4を使うか、M0クラスとのディアルコア化も解として有力かもしれません(コア性能差は、コチラを参照、Cortex-Mxの特徴はコチラを参照)。

PSoC 6はBluetooth 5.0とデュアルコアでしたが、IoT通信規格の決定だけでなく、MCUアーキテクチャ、これら両方の観察がIoT MCU選択に必要になりそうです。

RTOSへの備え:第3回、タスク間データ通知、同期、排他制御

各タスクが独立=バラバラで動作する場合には、第2回に示したスケジューラーのRunningの切り替えのみでもRTOSを使ったマルチタスクとしては十分機能します。実際、LPCXpresso付属のfreertos_blinkyサンプルソフトを理解するには、第2回までの説明で十分です。

しかし、あるタスクの結果を待って別タスクが動作するような場合には、結果の待ちや通知、タスク間の同期が必要です。今回は、RTOSがどのようにこれらタスク間のデータ通知、同期を行っているかを解説します。

これらの技術を習得すれば、殆ど(7割以上)のソフト開発をFreeRTOSでカバーできるようになります。つまり、ここがRTOS習得の山場と言っても良いでしょう。少し量が多いのですが、ご勘弁を…。

初めに、状態遷移図のSuspendedによるタスク間の待ちや同期を行う仕組みを説明し、次に具体的な方法を説明します。

Suspendedの役目

第2回で示した状態遷移図のSuspendedが、タスクの待ちを実現します。

タスクAとタスクB間の通知や同期には、タスク実行中に別タスクの結果を待つことが必要となります。タスクAに待ちが発生した時は、vTaskSuspened()のAPIを使ってSuspendedへ移行し、タスクBの結果を受け取ると、RTOSがvTaskResume()のAPIを使ってタスクAをReadyへ戻します。Suspended中も第2回で示したBlocked同様、MCU能力を消費しませんので、待ち期間中も他のタスクがRunningすることができます。

以上がSuspendedによるタスクの待ちや同期を行う仕組みの簡単な説明です。Blockedと似ていることが解ると思います。違いは、BlockedがRunningからのみ遷移するのに対し、どの状態からでもSuspendedへ遷移できる点です。次にRTOSでの具体的な方法を示します。

FreeRTOSのタスク間データ通信、同期、排他制御の方法

RTOSを使わない通常ソフトの場合は、ユーザが定義するメモリ経由で、変数や結果の通知をユーザ自身が行います。また、割込みにより同期が可能です。弊社マイコンテンプレートもこの方法を使っています。

FreeRTOSを使うソフト開発の場合は、
タスク間のデータ通信は、           Queues:キュー、
タスク間の同期は、                      Semaphore:セマフォ、
タスク間の排他制御は、               Mutex(=mutual exclusion):ミューティックス、
を使います。

Queues:キューによるタスク間データ通信

FreeRTOSは、Operating SystemですのでMCU資源のユーザによる直接アクセスを嫌います。メモリなどの直接表現ではなく、論理的にメモリを繋げたQueues:キューという手段で、通信という方法によりタスク間データ送受信を行います。FreeRTOSのタスク間通信Queues:キューは、FIFO:First In First Outとして使います。

FreeRTOS Task Communication
FreeRTOS Task Communication

タスクAからタスクBへキュー経由でデータ通信する例です。受信タスクBは、xQueueReceive()でキューからのデータを受信します。このキューにデータが無い時のみSuspendedへ移行します。Suspended中は、キューデータ有無をRTOSが監視し、データが生じた時はタスクBのxQueueReceive()以降の処理が実行されます。

つまりタスクBは、xQueseReceive()の記述のみでデータ受信処理が実現できます。データ有無による待ち制御は全てRTOS側で行いますので、タスクBは受信処理のみの簡単記述ができます。

キューにより送受信タスクの処理は完全に分離されますが、処理結果のデータは、FIFOなので順序が保たれて通信されます。

Semaphore:セマフォによる同期

FreeRTOSのSemaphore:セマフォは、バイナリセマフォです。割込みによる同期を図示します。

FreeRTOS Semaphore
FreeRTOS Semaphore

割込み処理は、割込みハンドラーと割込みサービスルーティン:ISRの2つで構成します。割込み発生時、優先順位に応じてMCUハードウエアが自動的にCallするのが割込みハンドラー、実際の割込み処理を記述する部分がISRです。※図では、Interrupt!がハンドラー、TaskがISRです。

FreeRTOSの割込み同期は、ISRで割込み発生をxSemaphoreTake()で待ちます。割込み発生時、ハンドラーで割込みフラグクリアなどの処理後、xSemaphoreGiveFromISR()で動作許可(図赤丸)を与えます。この動作許可によりISRのxSemaphoreTake()以降の割り込み処理が実行されます。これが割込み同期の実現方法です。

ISR処理後、動作許可は消えます。再びハンドラーが動作許可を生成するまでISRはSuspendedになります。

Mutex:ミューティックスによる排他制御

FreeRTOSのMutex:ミューティックス排他制御を図示します。

FreeRTOS Mutex
FreeRTOS Mutex

ミューティックスの場合は、セマフォと異なり初めから動作許可(図赤丸)があります。この動作許可を初めにTakeしたタスクAのみが共有リソースへアクセスできます。タスクAのアクセス中は、動作許可がないタスクBはxSemaphoreTake()でSuspendedになります。タスクAのアクセス終了後、動作許可をxSemaphoreGive()で放棄するので、今度はタスクBが共有リソースへアクセスできます。これが排他制御の実現方法です。

つまり、動作の許可を示すバイナリセマフォを同期で使う時はセマフォ、排他制御で使う時はミューティックスと呼ぶだけで、使用するAPIは、どちらもxSemaphoreGive()とxSemaphoreTake()です。
違いは、セマフォ同期のvSemaphoreCreateBinary()では、初期値:動作許可が無いこと、ミューティックス排他制御のxSemaphoreCreateMutex()では、初期値:動作許可が有ることです。

まとめ

FreeRTOSのタスク間データ通信、同期、排他制御の方法を示しました。これら待ちの制御は、スケジューラーのタスク管理Suspendedが重要な役割を果たします。

データ通信は、Queue:キュー作成後、このキューへタスクからデータSend/Receiveという通信で実現します。同期と排他制御は、Semaphore:セマフォ作成後、このセマフォへタスクから動作許可Give/Takeにより実現します。

タスク側の記述は、データのキューSend/Receive、セマフォの動作許可Give/Takeという単純なFreeRTOSのAPIのみで良く、関係タスクの状況に応じて即Runningにするか、あるいはSuspended→Ready→Runningにするかの面倒な制御は、全てRTOS側が行います。従って、ユーザタスクは、必要処理の簡単記述ができます。

今回登場したFreeRTOSのAPIが以下です。

キューデータ通信:          xQueueCreate()、xQueueSend()、xQueueReceive()
セマフォ同期:                  xSemaphoreCreateBinary()、xSemaphoreGiveFromISR()、xSemaphoreTake()
ミューティックス排他制御:xSemaphoreCreateMutex()、xSemaphoreGive()、xSemaphoreTake()

上記と、第2回で示したFreeRTOSのAPIとを加えても20個弱のAPIでFreeRTOSが使えます。これらのAPIとFreeRTOSスケジューラーを理解していれば、FreeRTOS以外でも慌てずにRTOSソフト開発に着手できると思います。

最終回の次回は、ソースコード+評価ボードの開発環境に勝る解説書はない、という話をする予定です。

RTOSへの備え:第2回、タスク管理

RTOSが複数ユーザタスクの無限ループを回し、タスクの優先順位に応じてMCU実行時間を振り分けること、その利点を第1回で示しました。RTOSは、タスクを処理単位として扱います。今回は、RTOSがユーザタスクをどのように扱うかを解説します。タスク自身は既に出来上がったものと仮定します。

FreeRTOSによるユーザタスクの扱い方

ユーザタスクをFreeRTOSで処理してもらうには、最初にタスク登録が必要です。登録済みの複数タスクは、RTOSにより以下のように4つの状態で管理されます。

FreeRTOSへのタスク登録APIが、vTaskCreate()、登録済みタスクの削除APIがvTaskDelete()です。FreeRTOSは、優先順位の高いタスクをRunningにします。従って、登録後、タスクを即実行するのではなく、他タスクとの優先順位判定をReadyで行い、その結果で実行状態にします(図示の太線部分)。

FreeRTOS Task States
FreeRTOS Task States

優先順位は、登録APIのvTaskCreate()パラメタで指定できますが、デフォルトは全て同順位です。同順位タスクは、TICK_RATE(タスク切換え時間)単位に実行状態を切り替えるラウンドロビン方式です。実行後は、再びReadyに戻されます。

例えば2タスクのみが登録された場合、LPCXpresso824ボードなら2タスクを1ms毎に交互に切り替えながら実行します。ユーザ側からは、2つのタスクが並列動作したように見えます。これが最も簡単なRTOSマルチタスク処理の説明です。

デフォルト優先順位の変更に使うAPIがvTaskPrioritySet()、vTaskPriorityGet()です。更にReadyやRunningのタスクに対して、図示のAPIでSuspendedやBlockedへも遷移可能です。

これら制御を行うのがスケジューラー、スケジューラーが行う制御をタスク管理と呼びます。スケジューラーをRTOSカーネルと呼ぶこともあります。FreeRTOSスケジューラーは、4個の状態でタスクを管理しますが、数がもっと多いRTOSの例もあります。
※例えば、RL78用のRTOS:RI78V4は、6個の状態遷移を持ちます。

Blockedの役目

さてここで、第1回で示したLED点滅タスクの無限ループ内にあるvTaskDelay()を解説します。

vTaskDealy()は、タスクをBlockedへ遷移させます。そして設定時間の停止後、Readyへ戻します。つまりBlockedの間は、MCUを使わないため他タスクがRunningになりうるのです。これが、RTOSを使っても、各タスクに通常ソフトと同じように無限ループを記述できる非常に重要な仕組みです。

RTOSを使わない通常ソフト記述の場合、無限ループは、文字通りそのループ内に留まりMCU能力を使い続けます。しかしRTOSは、vTaskDelay()によりソース上は無限ループでも、MCUを使いません。これによりマルチタスク処理ができるのです。

RTOSにより再びRunningに戻ったタスクは、vTaskDealy()の後の処理から実行されます。タスク側からは、指定時間の停止後に継続して実行しているように見えます。

スケジューラーの状態遷移図は、ユーザタスク側からみた状態です。Running以外はMCUを使わないNot Running (super state)ですが、スケジューラー自身のために(ほんの少し!)MCUを使います。このスケジューラーを起動するAPIが、RTOSのmain()最後にあるvTaskStartScheduler()です。

スケジューラー自身は、実は最高プライオリティを持つタスクです。従ってユーザタスクよりも優先的に処理されますが、実態はユーザタスクと変わりません。

まとめ

今回はRTOSのタスク管理を説明しました。スケジューラーの優先順位判定により複数のタスクRunningが切り替わりマルチタスクを実現すること、BlockedによりRTOSでのタスク記述に通常ソフト記述と同様の無限ループを使えることを示しました。

この回までに登場したFreeRTOSのAPIが下記です。FreeRTOS APIレファレンスマニュアルで詳細が解ります。
vTaskCreate()、vTaskDelete()、uxTaskPriorityGet()、 vTaskPrioritySet()、vTaskDelay()、vTaskStartScheduler()、
vTaskSuspend()、 vTaskResume()。
vTaskSuspend()、 vTaskResume()の2つは、次回解説予定。

RTOSへの備え:第1回、RTOSの必要性

IoT MCUのソフト開発は、RTOS:Real Time Operation Systemが必要になると思います。IoT向けでない通常のMCU開発でも通信UART制御は鬼門です。IoT MCUの通信プロトコルが何に決まるかは今のところ不透明ですが、UARTに比べて複雑な通信処理になることは明らかです。

この対策として、IoT向けMCUのRTOSを数回に分けて解説していきます。連載記事を読めば、RTOSが理解でき、いざIoT MCUで実際にRTOSを使わなければならなくなった時にも慌てずに対処することができます。

背景

本ブログは、IoT向けMCUのRTOS、FreeRTOSmbed OS 5を記載してきました。これらRTOS関連の資料は、少なからずあります。しかし、1から10まで書いている教科書的な内容で、参考書としては優れていますが、残業時間の制限が厳しい昨今、実務的にはもっと効率的に習得したいのが本音です。

そこで、最低限のRTOS知識とMCU評価ボードを使って、手っ取り早くお金をかけずにRTOSを習得することを目標とします。この目標に沿ってブログ記事を作成します。このための開発環境が下記です。

使用RTOS:FreeRTOS(NXPのIDE:LPCXpresso無料版に付属)
MCU評価ボード:NXP LPCXpresso812またはLPCXpresso812/824-MAXまたはLPCXpresso1114/5
※記事ではFreeRTOS v8.0.1、LPCXpresso v8.2.2、LPCOpen v2.19(いずれも2017年2月最新のLPCXpresso無償版に付属)とLPCxpresso824-MAXを使います。
FreeRTOS Documentationにある“Mastering the FreeRTOS Real Time Kernel – a Hands On Tutorial Guide”が参考書としてお勧めです。

MCUのLPC812/824、LPC1114/5で動作するFreeRTOSがポーティング済みで、かつ秋月電子などで低価格で入手性が良いMCU評価ボードで動作確認できることが選定理由です。

LPCXpresso824-MAX
LPCXpresso824-MAX

因みに、LPCXpresso812/1114/1115評価ボードで動作する弊社マイコンテンプレートも販売中です。このマイコンテンプレートによる従来ソフト開発と、FreeRTOSによるソフト開発の違いなどでRTOSの特徴を浮き彫りにします。

RTOSの必要性

評価ボード実装済みのLEDを点滅させるいわゆる「Lチカ」サンプルソフトを、FreeRTOS利用時のソースの一部(左側)と、RTOS未使用の通常ソフト記述(右側)を示します。最大の違いは、無限ループの数です。

RTOS LED sample
RTOS LED sample(2タスクのみ抜粋)

FreeRTOS記述の場合、1個のタスク(≒ユーザ処理単位)で1個の無限ループを持ちます。一方、通常ソフト記述の場合は、全体で1個の無限ループのみです。1個の無限ループ内で様々なユーザ処理を行うため、ループ内の1処理時間の長さ、短さ、待ちがその他の処理へ影響を与えます。

RTOSを使う最大の利点は、1つのタスク実行時間の影響が、他のタスクへ及ばないことです。

このおかげで、あたかも1つのMCUを占有するかのようにユーザタスク記述ができます。従って、1個のタスクが、1個の無限ループを持つのです。複数のタスクへ優先順位に応じて実行時間を振り分けるのは、RTOSの役目です。

ユーザタスクは、他のタスクのことを気にせずに記述できるため、シンプルな処理になりタスク単位の可搬性も向上します。

RTOSでのユーザタスク記述は、通常ソフト記述と何ら変わることはありません。1無限ループ内にシンプルな処理を記述すれば良いのです。ただし、RTOS利用のオーバーヘッドとして、タスクの登録や優先順位の設定は別途必要となります。

要はRTOS APIを追加するだけ!

RTOSのLチカサンプルソースは、FreeRTOS APIとLPCXpresso API、残りがC言語の3構成です。

LPCXpresso APIとC言語は、通常ソフト記述時に使うものと同じです。FreeRTOS APIは、APIの頭に必ずx…、v…、ux…などが付いています。これらの接頭語は、FreeRTOS以外のRTOSでも同様です。RTOSユーザタスクの記述は、通常ソフトの記述に、これらRTOS APIが加わったのみです。

従ってFreeRTOS APIの使い方を理解すれば、FreeRTOSに限らず他のRTOSへも応用可能です。使用頻度が高いFreeRTOS APIの使い方を習得すれば、基本的なRTOSユーザタスク開発ができると思います。この方法でIoT MCUにRTOSが適用された時でも、慌てずに備えることができます。

まとめ

今回は、RTOSの利点を説明しました。RTOSが複数ユーザタスクの優先順位に応じてMCU実行時間を振り分けるので、個々のユーザタスクはシンプルで可搬性に優れた記述ができます。

IoT MCUの通信処理はUARTに比べ複雑です。この複雑さは、再送データ数や外来ノイズなどの通信環境により様々に変化します。RTOS無しの通常ソフトでこれらに対応するには複雑すぎると思います。

この対応には、RTOSが期待できます。しかし、RTOS習得には初期段階で手間と時間が掛かるため、実務的で手軽に習得できると筆者が思う1習得方法を示しました。

今後も、FreeRTOSのポイントをできるだけ簡潔に説明していきます。詳しく知りたい方は、お勧め参考書などを参照してください。

Cortex-M23+mbed OS 5=セキュアIoT MCU

2017年1月13日発行“ARMの最新アーキテクチャ「ARMv8-M」が目指す「セキュアMCU」とは”の記事を読むと、ARMコアの新ラインアップCortex-M23の中身:ARMv8-Mが備えるセキュリティの概要が分かります。IoT向けマイコン:MCU実現には、Cortex-M23にARM RTOSのmbed OS 5実装が必須になりそうです。

Cortex-M0, M0+ and M23
Cortex-M0, M0+ and M23(出典:ARM)

既存MCUの脆弱箇所

IoT MCUにはセキュリティ対策が必須との記載をよく見かけます。しかし、具体的にどこが脆弱箇所で、それはなにかを目にしたにはこの記事が初めてです。Cortex-M23の謳い文句は、セキュリティに対する深い知識、経験が無くても扱えることですが、これら脆弱箇所は深くない常識?!として知らなければいけなかもしれません。

従来MCUの脆弱箇所(記事より)
従来MCUの脆弱箇所(記事より)

ARMv8-Mは、これら脆弱箇所に対して3段構えハードウエアで多段防御しています。詳細は、記事を読んでください。

ハード+ソフトのARM IoTセキュリティ戦略

重要なのは、これらの防御にもかかわらず外部との通信セキィリティ、具体的には通信データの暗号化処理は、別途IP:Cryptocell-312か、または、mbed OS 5(TLS部分)が必要になる点です。低価格IoT向けMCUでは、IP追加よりもmbed OS 5実装の方が現実的ですので、結局、下記公式が成り立ちそうです。

低価格セキュアIoT MCU=Cortex-M23+mbed OS 5

mbed OSの構造(記事より)
mbed OSの構造(記事より)

FreeRTOSなどの他社RTOSをCortex-Mコアへ適用しようか検討している方は、要注意です。Runesasは、SynergyでThreadXを使いそうです。

また、記事にあるようにMCUコードをOTA:Over The Airで更新を行うとなると従来MCUとは別次元の開発スキルが要求されます。RTOSがサポートしてくれれば良いですが、Windowsでさえも更新失敗が(たまに)ありますから…。

セキュアIoT MCU向けハード/ソフトが揃いつつあります。中小規模の従来MCU開発を長くやってきた開発者側としては、IoT MCUの構造は、従来とかなり異なる感触を得ます。Qualcomm(NXP)あたりから、IoT MCUレファレンスデザインを早期にリリースしてくれれば、よりハッキリすると思います。

2016年マイコン業界と超速開発

2016年マイコン業界

Qualcomm ← NXP ← Freescale、買収先の企業へ矢印を付けるとこのようになります。
QualcommはSnapdragonなどのスマホチップセットを供給する半導体ベンダーです。車載を得意とするNXPの社名は残りそうですが、買収後のNXP/旧FreescaleのCortex-M系マイコンラインアップは気になります。
さらに、Windows 10がこのQualcommのSoCで動作するというニュースは、IoT向けPCやスマホにMicrosoftが参入し、数多くある無線規格の収束を早めるかもしれません。

先ず2017年3月、開発環境LPCXpressoとKinetis Design Studioが新しいMCUXpressoに統合されます。また、先日発表の2017ロードマップによると、スイッチマトリクスを持つLPC8xxシリーズが充実します。QualcommとのシナジーによりIoT無線規格のIoTマイコン発売が期待できます。

一方、RunesasもSynergyで遅ればせながらARM Cortex-Mマイコン開発に乗り出し、従来からある独自コアを持つRL78の16ビットマイコンやIDE:CS+は肩身が狭くなった気がします。既存マーケットにはRL78、IoTにはSynergyのCortex-M23/M33という住み分けを意識したかのようです。

Cypressは、Spansion買収によりCortex-M0+コアを入手し、PSoC4へ適用し始めました。アナログ技術が豊富なPSoC4/PRoC/PSoC4 BLEマイコンが更に強化されました。私はCortex-M0/M0+開発では、最も使いやすいIDE:PSoC CreatorとPSoC4/PRoC/PSoC4 BLEの組合せがピカ一だと評価しています。Cortex-M23のラインアップ追加が待ち遠しいです。

※上記は、下記個人レベルで準備できる「入手性が良く、低コストマイコン」の選択基準に合致する半導体ベンダーに限定して分析しております。

超速開発環境

顧客が許容するマイコンソフト/ハード開発時間は、ますます短くなります。
顧客側の技術理解レベルが追い付かないのも原因の1つですが、状況変化が激しいので即開発し、市場でのフィードバック、改良などを繰り返しながら製品化が必要なことが大きな要因です。

短い開発時間は、マイコン開発者にプレッシャーや焦りを生じさせます。しかし、焦りは禁物です。
良い成果物を効率的に出力できるワザ、これがマイコン開発者には必要です。

このワザ習得には、時間を気にせずに没頭できる環境、例えば自宅などで、新しいマイコンや現状マイコンを、身銭を使うので低コストで、しかも短時間で習得できる方法が必要です。
技術は、食べ物と同じで自分で習得(食べ物なら消化)してこそ身に付きます。食べ過ぎて消化不良になるのを避ける手段/方法があります。

この習得方法が超速開発環境、マイコン評価ボード(=スターターキット)+拡張ボード(=mbed-Xpresso Baseboard)+そして弊社マイコンテンプレートです。

マイコンテンプレート(税込1000円)は、懇切丁寧な添付資料や多くの(冗長な!?)コメントをソースに付加しています。従って、初心者が陥りがちな初期トラブルを避けることができ、ベンダー提供のサンプルソフトを活用したマルチタスクで、評価ボードと拡張ボードを動かせます。
ソフト担当者は、マイコンを自分で動かせれば、安心して厳しい状況でも開発できます。

また、基板開発時に問題となるアートワーク(配線引き回し)に配慮したIO割付を実ボードで検証できるので、基板化障壁も下がります。
ハードのみの担当者であっても、この超速開発環境はマイコン回りのベンダー推薦配線チェック、アートワークに適したIO割付をソフト開発者へ提案、基板テストプログラム開発時などにも役立ちます。

*  *  *

販売中のマイコンテンプレート5種
販売中のマイコンテンプレート5種

「入手性が良く、低コストマイコン」という基準で、現在5種マイコンをピックアップし、そのマイコンテンプレートを開発/販売することで、超速開発をサポートするのが本サイトの目的です。ご要望により新たなマイコンを追加する可能性もあります。

サイトに対するご意見、ご要望、追加マイコンなどお気軽にinfo@happytech.jpへお寄せください。

本年もありがとうございました。来年も引き続き弊社サイト、どうぞよろしくお願い申し上げます。

NXP LPC8xxの2017年ロードマップ

ARM Cortex-M0+で8/16ビットマイコン置換え市場を狙ったNXP LPC8xxの2017年ロードマップが公開されました。LPC1700の後継機LPC54000のロードマップと共に下記に示します。

LPC8xx Roadmap
LPC8xx Roadmap(サイトより抜粋)

※LPC1700とLPC54000は本ブログ対象外ですので、説明は割愛します。

2017年のLPC8xx

現在LPC8xxシリーズラインアップが下記です。

LPC8xx Series Lineup
LPC8xx Series Lineup

ピン数が少なくても多様なIOを構成できるスイッチマトリクスを持つCortex-M0+マイコンです(スイッチマトリクスについては、過去のLPC8xxブログ記事などを参照してください)。

ロードマップを見ると、ROMを増やす方向のLPC84xと、動作速度を下げる方向のLPC80xが2017年に発表されます(他のLPC8xxシリーズは、1.8V-3.6Vで30MHz動作)。速度低下に伴って、動作電圧も下がるかは不明です。

NXPは、QUALCOMMに買収されましたが、2017年ロードマップにLPC8xxが示されたことは、スイッチマトリクスが好きな私にとって好材料です。

掲載サイトには、2017年3月リリース予定のMCUXpressoのことも掲載されていますが、特に新しい情報はありませんでした。

Cortex-M0/M0+/M23

11月10日の記事記載のように、IoTデバイス向けに「セキュリティ強化のCortex-M23」と、従来「8/16ビットマイコン置換えのCortex-M0/M0+」の2つにCortex-M系の低コストマイコンも使い分けが必要な気がします。

IoTデバイスは、今のところ無線通信方式に決めてが見つかりません。そこで、適用市場が明確なCortex-M0+の新製品を先行して投入するのがNXPの作戦ではないでしょうか?

ARM Cortex-M23の特徴

ARMがセキュリティ機能を統合した新プロセッサ「Cortex-M23/M33」を発表記事から、Cortex-M23とCortex-M0/M0+の相違点、開発ポイントになりそうな箇所を抜粋し、特徴を考察します。

IoTデバイスのセキュリティ

“ネットワークに繋がるIoTデバイスには、セキュリティは必須”“
”IoTデバイスにセキュリティを普及させるには、セキュリティに対する経験が全くないエンジニアでも扱うことができる「1ドル以下のセキュアなMCU設計」が必要。このソリューションがARMv8-M TrustZone。“
”ARMv8-M命令セットは、必要最小限のベースラインセットと、浮動小数点演算などの拡張メインラインセットの2階層から成り、Cortex-M23は、ベースラインセットを実装“
”Cortex-M0/M0+は、ARMv6-M命令セット。Cortex-M23は、Cortex-M0/M0+後継の位置づけ。“

Baseline Instruction Set
Baseline Instruction Set(記事より)
Cortex-M0, M0+ and M23
Cortex-M0, M0+ and M23(記事より)

整数演算プロセサのCortex-M23

“性能レンジ:0.98MIPS/MHz、2.5CoreMark/MHz、Cortex-M0+比1.6~3.2%の性能向上”

Performance of Cortex-M
Performance of Cortex-M(記事より)

“Cortex-M23は、Cortex-M0/M0+と同じ2ステージパイプラインでミニマムパイプライニング”
“Cortex-M23は、フォンノイマンアーキテクチャ”

低コストかつ低電力にセキュリティを実装

“Cortex-MシリーズのTrustZoneは、以前からあるCortex-A向けのTrustZoneとは異なる”
“ARMv8-MのTrustZoneは、ハードウエアによるステイト遷移、セキュリティモニタソフト不要、ハードウエア遷移なのでレイテンシ少で、低速MCUでも実用的なセキュリティシステム”

※Cortex-M33に関しては、本ブログ対象ではないので、記事抜粋を割愛しております。

ハードによるセキュリティ機能実装メリット

パソコンを使う人なら、セキュリティ機能が必須で重要であることは、重々承知しています。また、その副作用として、本来の処理遂行に時たまジャマ?になることも…。性能が限られたMCUではなおさらでしょう。

イメージとしては、ウオッチドックタイマが近いと思います。開発初期やデバッグ中は機能を停止させ、最終版では、必ず動作させます。動作しても、ソフト性能がむやみに消費されることは殆どありません(というか、そのようにソフトを作ります)。

また、セキュリティに対する深い知識、経験が無くても扱えることも大歓迎です。要は、ネットワークに安全確実に繋がり、本来処理を、低価格低電力で実行できさえすれば、良いのですから。セキュリティは必須でも、あくまで付加サービスです。

Cortex-M23は、Cortex-M0/M0+の置換えヒット商品の予感がします。ARM Cortex-M0/M0+へ初挑戦する方も、既にCortex-M開発経験がある方も、楽しみなデバイスが出てきました。弊社マイコンテンプレートも現在はCortex-M0/M0+のみの対応ですが、Cortex-M23 MCU発売後は、対応する予定です。

ルネサスSynergyでCortex-M23サポート発表

ルネサスが、SynergyにARM Cortex-M23を加える予定を発表しました。Cortex-M23は、コチラを参照してください。

Synergy

Synergy Lineup
Synergy Lineup(記事より抜粋)

Synergyは、2015年10月に提供開始した新しいARM Cortex-M系の開発環境(2015年10月18日の記事も参照ください)。

他ベンダ―のARM Cortex-M開発環境は、EclipseベースIDEであるのに対して、少し異なる(Apple的な)アプローチを取っています。ガラパゴスと言われなければ良いな?!と思いますが…。後発なのでプラスアルファした結果だと思います。

このSynergyに先日記載したCortex-M23を将来的に加えると発表しました。IoTデバイスを狙うなら当然です。本ブログも注視していきます。

米クアルコム、NXPを470億ドルで買収

先日の記事で記載した米クアルコムは、現地時間の2016年10月27日、NXPを約470億ドルで買収したと発表しました。

Qualcomm to acquire NXP
Qualcomm to acquire NXP

NXPのPresident & CEOのRick Clemmer氏から関係者宛(ユーザ登録のみの私も含む)メールで判明しました。