Cortex-M0/M0+/M3比較とコア選択

デバイスが多く選択に迷う方も多いマイコン:MCU。周辺ハードウェアも異なるので、最初のMCUコア選択を誤ると、最悪の場合、開発のし直しなどに繋がることもあります。

本稿は、STマイクロエレクトロニクスのSTM32マイコンマンスリー・アップデート10月号P8のトレーニング資料、STM32L0(Cortex-M0+)掲載のARM Cortex-M0/M0+/M3の比較資料を使ってMCUコア選択方法についての私案を示します。

STM32L0(Cortex-M0+)トレーニング資料

各種STM32MCU(Cortex-Mx)毎の非常に良くできた日本語のテクニカルスライド資料が入手できます。例えばSTM32L0(Cortex-M0+)は194ページあり、1ページ3分で説明したとしても、約10時間かかる量です。他のMCU(Cortex-Mx)資料も同様です。

開発に使うMCUが決まっている場合には、当該資料に目を通しておくと、データシート読むよりも解りやすいと思います。しかし、Cortex-Mxコア差を理解していない場合や、開発機器の将来的な機能拡張や横展開等を考慮すると、どのMCU(Cortex-Mx)を現状開発に使うかは重要検討項目です。

ここで紹介するSTM32L0(Cortex-M0+)トレーニング資料には、Cortex-M0+特徴説明のため、通常データシートには記載が無いCortex-M0やCortex-M3との違いも記載されています。

そこで、STMマイコンのみでなく一般的なARMコアのMCU選択に重要な情報としても使えるこの重要情報ページを資料から抜き出しました。

Cortex-M0/M0+/M3比較

バイナリ上位互換性

Cortex-Mxのバイナリ互換性(出典:STM32L0(Cortex-M0+)トレーニング資料)
Cortex-Mxのバイナリ互換性(出典:STM32L0(Cortex-M0+)トレーニング資料)

先ず、P22のCortex-Mプロセッサのバイナリ互換性です。この図は、Cortex-Mxコアの命令セットが、xが大きくなる方向には、上位互換であることを示しています(ただし再コンパイル推薦)。逆に、xが小さくなる方向は、再コーディングが必要です。

つまり、Cortex-M0ソースコードは、M0+/M3/M4へも使えるのです。Cortex-Mxで拡張された命令セットの特徴を一言で示したのが、四角で囲まれた文章です(Cortex-M3なら、“高度なデータ処理、ビットフィールドマニピュレーション”)。
さらに、STM32MCU内臓周辺ハードウェアは、各シリーズで完全互換なので、同じ周辺ハードウェア制御ソースコードはそのまま使えます。

もちろんxが大きくなるにつれコア性能も向上します。しかし、よりCortex-Mx(x=+/3/4)らしい性能を引き出するなら、この四角文章のコーディングに力点を置けば、それに即した命令が用意されているので筋が良い性能向上が期待できる訳です。

超低電力動作Cortex-M0+、39%高性能Cortex-M3

P22ではCortex-M0とM0+の違いが解りません。そこで、P19のCortex-M0/0+/3機能セット比較を見るとCortex-M0+が、Cortex-M0とCortex-M3の良いとこ取り、中間的なことが解ります。また、Cortex-M3が、M0比39%高性能だということも解ります。

Cortex-M0_M0+_M3セット比較(出典:STM32L0(Cortex-M0+)トレーニング資料)
Cortex-M0_M0+_M3セット比較(出典:STM32L0(Cortex-M0+)トレーニング資料)

具体的なCortex-M0+とCortex-M0との差は、P20が解りやすいです。Cortex-M0+は、性能向上より30%もの低消費動作を重視しています。また、1サイクルの高速GPIOも特徴です。Cortex-M0+は、M0の性能を活かしつつより既存8/16ビットMCU市場の置換えにチューニングしたからです。

Cortex-M0とCortex-M0+の比較(出典:STM32L0(Cortex-M0+)トレーニング資料)
Cortex-M0とCortex-M0+の比較(出典:STM32L0(Cortex-M0+)トレーニング資料)

さらにP21には、低電力化に寄与した2段になったパイプラインも示されています。Cortex-M0/M0+は、今年初めから話題になっている投機的実行機能の脆弱性もありません。

Cortex-M0とCortex-M0+のブランチ動作(出典:STM32L0(Cortex-M0+)トレーニング資料)
Cortex-M0とCortex-M0+のブランチ動作(出典:STM32L0(Cortex-M0+)トレーニング資料)

関連投稿:Cortex-Mシリーズは、投機的実行機能の脆弱性はセーフ

共通動作モード:Sleep

Cortex-M0とCortex-M0+の低消費電力モード(出典:STM32L0(Cortex-M0+)トレーニング資料)
Cortex-M0とCortex-M0+の低消費電力モード(出典:STM32L0(Cortex-M0+)トレーニング資料)

低電力化は、Cortex-M0+で追加された様々な動作モードで実現します。この一覧がP70です。つまり、Cortex-M0+らしさは、M0にない動作モード、LP RUNやLP sleep (Regulator in LP mode)で実現できるのです。

逆に、SleepやSTANBYの動作モードは、Cortex-M0/M0+で共通です。さらに、Cortex-M3でも、アーキテクチャが異なるので数値は異なりますが、SleepとSTANBY動作モードはM0/M0+と共通です。

ここまでのまとめ:Cortex-M0/M0+/M3の特徴

Cortex-M0/M0+/M3の特徴・違いを一言で示したのが、下表です(関連投稿より抜粋)。

各コアの特徴は、MCUアーキテクチャや命令セットから生じます。但し、M0/M0+/M3でバイナリ上位互換性があるので、全コアで共通の動作モードがあることも理解できたと思います。

ARM Cortex-Mx機種 一言で表すと…
Cortex-M0+

超低消費電力ハイパフォーマンスマイコン

Cortex-M0

低消費電力マイコン

Cortex-M3

汎用マイコン

Cortex-M4

デジタル信号制御アプリケーション用マイコン

関連投稿:ARMコア利用メリットの評価

MCUコア選択方法

  1. Cortex-M0またはCortex-M0+コアでプロトタイプ開発を行い、性能不足が懸念されるならCortex-M3コア、さらなる消費電力低下を狙うならCortex-M0+コアを実開発で選択。
    プロトタイプ開発に用いるソースコードは、そのまま実開発にも使えるように、全コアで共通の動作モードで開発。
  2. 早期にプロトタイプ開発を実開発に近い形で作成するために、弊社マイコンテンプレートを利用。

1.は、本稿で示した内容を基に示したMCUコア選択指針です。低消費電力がトレンドですので、プロトタイプ開発の段階から超低消費電力のCortex-M0+を使うのも良いと思います。しかし、初めから超低消費動作モードを使うのでなく、全コアで共通動作モードでの開発をお勧めします。

理由は、万一Cortex-M0+で性能不足が懸念される時にCortex-M3へも使えるソースコードにするためです。プロトタイプ開発の段階では、ソースコードの実開発流用性と実開発の評価を目的にすべきです。チューニングは、実開発段階で行えばリクスも少なくなるでしょう。

2.は、プロトタイプ開発実現手段の提案です。マイコンテンプレートは、複数のサンプルソフトを結合して1つにできます。実開発に使える(近い)サンプルソフトさえ見つけられれば、それらをバラック的にまとめて動作確認できるのです。これにより、当該コアのプロトタイプ評価が早期にできます。

また、マイコンテンプレートで使用したSTM32評価ボードは、ボードレベルでピンコンパチなのでCortex-M0/M0+/M3への変更も簡単です。

関連投稿:マイコンテンプレートを使ったアプリケーション開発手順

MCUコア選択の注意事項:重要度評価

ARMコア向けの弊社マイコンテンプレートは、全てCortex-M0/M0+/M3共通の動作モードで開発しています。
その理由は、テンプレートという性質・性格もありますが、本稿で示した他のARMコアへのソースコード流用性が高いからです。試しに開発したソースコードであっても、無駄にはならないのです。

最後に、P184、P185に示されたCortex-M0(STM32F0)とCortex-M3(STM32L1)、Cortex-M0+(STM32L0)のADCの差分を示します。

Cortex-M0/M0+/M3のADC比較1(出典:STM32L0(Cortex-M0+)トレーニング資料)
Cortex-M0/M0+/M3のADC比較1(出典:STM32L0(Cortex-M0+)トレーニング資料)
Cortex-M0/M0+/M3のADC比較2(出典:STM32L0(Cortex-M0+)トレーニング資料)
Cortex-M0/M0+/M3のADC比較2(出典:STM32L0(Cortex-M0+)トレーニング資料)

STM32MCU内臓周辺ハードウェアは、各シリーズで完全互換と先に言いましたが、スペックを細かく見るとこのように異なります。

このハードウェア差を吸収するのが、STM32CubeMXで提供されるHAL(Hardware Abstraction Layer)です。つまり、STMマイコンを使うには、コア選択も重要ですが、STM32CubeMX活用も同じように重要だということです。もちろん、STM32FxマイコンテンプレートもSTM32CubeMXを使っています。

ARMコアは、バイナリ上位互換ができる優れたMCUコアです。MCUベンダーは、同じARMコアを採用していますが、自社のMCU周辺ハードウェアレベルにまで上位互換やその高性能を発揮できるような様々な工夫・ツールを提供しています。

開発MCUを選択する時には、コア選択以外にも多くの選択肢があり迷うこともあるでしょう。多くの場合、Core-M0/M0+/M3などの汎用MCUコアでプロトタイプ開発を行えば、各選択肢の重要度評価もできます。スペックだけで闇雲に選択するよりも、実務的・工学的な方法だと思います。

STM32MCUのアンチ・タンパ機能

STマイクロエレクトロニクス(以下STM)のSTM32MCUマンスリー・アップデート最新10月号から、アンチ・タンパ機能を紹介します。

関連投稿:「日本語マイコン関連情報」のSTM32マイコン マンスリー・アップデート

タンパとは

タンパ:tamperとは、(許可なく)いじくることです。例えば、MCUパッケージをこじ開けるなどの行為(=タンパイベント)を検出した場合、内部バックアップ・レジスタを全消去し、重要データが盗まれるのを防ぐのがアンチ・タンパ機能です。MCUハードウエアによるセキュリティの一種です。

※マンスリー・アップデート10月号、P13の“STM32のココが便利”、今月のテーマ:~その2~参照

セキュリティの重要性がユーザで認識されつつあるので、開発者としては、「タンパ保護」、「アンチ・タンパ」、「RTCレジスタ保護」、「GPIO設定ロック」などのキーワードは覚えておくと良いでしょう。基本機能実装後にセキュリティを追加する時や、他社差別化に役立つからです。

STM32MCUのセキュリティ機能

マンスリー・アップデート9月号、P12今月のテーマにもセキュリティ機能がありますが、これはSTM32MCU独自というより、ARM Cortex-MコアMCU全てに実装の機能です。STM32MCUと他社の差別化には使いにくいと思います。

差別化に適すのは、ARM Cortex-Mコア以外の周辺回路です。そこで、RTCとGPIOについて、本ブログ掲載中の評価ボード実装MCU、STM32F072RB(Cortex-M0)とSTM32F103RB(Cortex-M3)のタンパ機能設定方法をデータシートで調べました。

出典:STM32F071x8 STM32F071xBデータシート 2017/1版
出典:STM32F103x8 STM32F103xBデータシート 2015/8版

関連投稿:STM32マイコンの評価ボード選定

RTC

MCUで処理実時刻を記録する場合などには、RTCが便利です。

RTCのアンチ・タンパ機能は、アラーム・タイムスタンプとRTCレジスタ保護の2つがあります。RTCレジスタ保護は、RTCレジスタへのアクセス手順のことです。RTC利用時、通常レジスタと異なる面倒な手順でRTCレジスタを設定しているのをサンプルソフトで見た記憶があります。

アラーム・タイムスタンプは、タンパイベント発生時のカレンダーを記録する機能です。但し、データシート内の説明は少なく、実際にソフトウェアでどのように設定すれば機能するかは不明です。

試しにSTM32CubeMXでSTM32F072RBのRTCを設定すると、Tamper 2のみ設定可能です。ヘルプ資料UM1718の説明も少なく、やはり詳細は不明です。
但し、将来アンチ・タンパ機能を実装するなら、Tamper 2に連動してアクティブ化するPA0ピンは、リザーブした方が良さそうです。

STM32F072RBのTamper 2とPA0
STM32F072RBのTamper 2に連動してアクティブ化するPA0ピン

同じ理由で、STM32F103RBならPA13ピンをアンチ・タンパ機能用にリザーブできると良いでしょう。

GPIO設定ロック

GPIO機能を固定するGPIO設定ロックについては、データシート内をTamperで検索してもヒットせず記述もありません。

まとめ

STM32MCUのアンチ・タンパ機能を、STM32マイコン マンスリー・アップデートから抜粋、解説しました。

ユーザがMCUセキュリティを重視しつつあるので、STM32MCUハードウエアが提供するセキュリティの一種であるアンチ・タンパは、他社差別化機能として役立つと思います。

そこで、STM32F072RBとSTM32F103RBのRTC/GPIOソフトウェアでのアンチ・タンパ設定方法をデータシートで調査しましたが、具体的情報は得られませんでした。

対策として、RTC/GPIOサンプルソフトから設定を得る方法があります。但し、ソースコードには、アンチ・タンパ機能の目的や、なぜ面倒な設定手順が必要かについての記述は無いので、マンスリー・アップデートのアンチ・タンパ、RTCレジスタ保護やGPIO設定ロックの理解が、サンプルソフト解読に必要だと思います。

Windows 10更新中断、μT-Kernal、IoTマイコン

Windows 10 1809更新によりユーザファイルが消失するトラブルが発生しています。このためMicrosoftは、Windows 10 1809への更新を一時中断しました。

Windows 10更新でマイドキュメントフォルダ消失!

消失フォルダは、よりによってC:\User\[user name]\Documentsだそうです。マイコンIDEのプロジェクトファイルをマイドキュメントフォルダへ設定している方(私がそうです)は、1809更新を待った方が良いかもしれません。

幸い私の3台のPCは、全て問題なく1809更新に成功し、Documentsフォルダも無事でした。

よく言われる最悪を避けるには、個人データのバックアップです。しかし、Windows機能更新時に、最も守るべきユーザデータを壊す/消すという不具合は、OSとしては許されません。Fast/Slow リングで検証できなかったのでしょうか?

μT-Kernal

OSと言えば、マイコン向けのリアルタイムOS:μT-Kernalの解説がトランジスタ技術2018年10月号の組込みOS入門という別冊にあり、第2章~第6章にリアルタイムOS(RTOS)の説明があります。

また、トロンフォーラムへの登録が必要ですがルネサスRL78/G14向けにポーティングしたμT-Kernalを無料でダウンロードできます。

※μT-Kernalは、ITRONベースに2003年公開の32ビットマイコン向けオープン・ソースRTOS。

本ブログではこれまでRTOSとしてFreeRTOSを紹介してきました。μT-Kernalと比較するとより理解が進むと思います。

関連投稿:マイコンRTOS習得

IoTマイコンとRTOS

IoTマイコンにRTOSを使うと、今回のWindows 10のようなトラブルを招く可能性が生じます。ただIoT通信手段が何になるにせよ、高度なセキュリティや公共リソース利用のための通信処理をマイコンで行うには、RTOSが必要になると思います。

この状況ならいっそのことIoTマイコンには、Cortex-M4(または同等クラス)とCortex-M0/M0+マルチコアを導入し、Cortex-M4でIoT関連処理、Cortex-M0/M0+で従来のMCU処理に2分割、さらにIoT関連処理はMCUベンダーが全て無償提供してくれればIoT MCUの爆発的普及が進むと思います。

つまり、Cortex-M4のIoT関連処理がWindows 10に相当する訳です。これならIoT通信手段やセキュリティが変わってもCortex-M4部分のソフトウェアをOTA(Over The Air)で変えれば対応できます。我々開発者は、本来のマイコン処理に集中できます。
理想的な空想ですがね…。

関連投稿:OTAについてIoT端末の脆弱性対応はOTA:Over The Air更新が必須の章参照

STM32マイコン マンスリー・アップデート

STマイクロエレクトロニクス(以下STM)の「日本語マイコン関連情報」、STM32マイコン マンスリー・アップデートを紹介します。

STM32マイコン マンスリー・アップデート
STM32マイコン マンスリー・アップデート。2018年バックナンバーも示す(出典:STマイクロエレクトロニクス)。

無料の登録制です。

  1. MCU最新トピックス(コラム、半ページ技術解説含む)
  2. MCU資料:更新/新規追加の一覧
  3. 開発環境(IDE)更新情報、日本語資料(トレーニング資料含む)

その他、開発に役立つ情報が、丁寧に整理されています。

特に、1最後の”今月のコラムと技術解説”は、A4:1ページに纏まっていて、チョットした空き時間に目を通しておくと、後々役立つ情報になると思います。

また、2と3のMCU資料更新や新規追加、IDE更新情報は、リンク一覧で当該場所が判る優れたハイパーテキストです。

STM32開発者以外のARM Cortex-M開発者にも有用

STM32開発者に限らずARM Cortex-M開発者なら一読の価値がある月刊誌でお勧めです。

最新ARM Cortex-Mマイコン動向とIoT MCUを特徴付ける3要素

最新ARM Cortex-Mマイコン:MCU製品からその動向を調査します。前稿ルネサスエレクトロニクス(以下ルネサス)RL78ファミリの汎用MCU変遷に続き、ARM Cortex-MコアMCU編という位置づけです。最後に両者を比較し、IoT MCUを特徴付ける3要素についての私見を示します。

最新ARM Cortex-Mマイコン製品の特徴

本ブログ掲載中のベンダ各社とMCUです。

ブログ掲載中の各社MCU
ブログ掲載中の各社MCU

ルネサス以外は、全てARM Cortex-Mコアを用いています。これらをARMコア製品、一方ルネサスはNon ARMコア製品と呼ばれます。現在のMCUは殆どがARMコア製品です。

各社ともIoT向けのMCU新製品を発売中です。その中からNXPセミコンダクターズ(以下NXP)のLPC51U68 MCU(2018年3月発売)をピックアップし特徴を抽出します。

LPC51U68は、8/16ビット置換えを狙う低消費電力Cortex-M0+コアを最大100MHz動作まで高め、USB2.0、256KB ROM、96KB RAM実装、12bit 5Mspsと高機能ADC内蔵のMCUです。

LPC51U68 MCU Block Diagram (出典:LPC51U68 Fact Sheet)
LPC51U68 MCU Block Diagram (出典:LPC51U68 Fact Sheet)

コア速度のアプリケーション対応(置換えからIoT市場開拓へ)

32ビットCortex-M0/M0+コア本来の目的は、既存8/16ビットMCUの置換えです。従ってこれまでは、既存MCU(例えばルネサスS1/S2/S3コア)速度と同等の30~50MHzがCortex-M0/M0+コア動作速度でした。しかし、NXPはより低速で低消費電力な8MHzや15MHzのコア速度の新製品を発表しました。

関連投稿:8MHz Cortex-M0+コア採用のLPC8N04

関連投稿:15MHz Cortex-M0+コア採用のLPC80x

つまり、既存MCU置換えだけでなく、よりアプリケーションに適したコア速度採用のARMコア製品の一環として開発されたのが紹介した100MHz動作のLPC51U68です。

ARMコア製品は、8/16ビット置換えから、IoTアプリケーション市場開拓への展開も始めたと言えるでしょう。

IoT向きの周辺回路実装(汎用からIoTアプリケーションMCUへ)

従来MCUもUSB接続でプログラムダウンロードやデバッグはできます。これらに加えLPC51U68のUSBは、USB 2.0ホスト機能もライブラリで提供します。PC同様、USBキーボードやデータロガー用に簡単に大容量USBメモリがMCUに接続できるので、HMI(Human Machine Interface)に優れたIoTデバイスが開発できます。

ADCもE-meterなどにも使いやすいような高機能版が用いられています。

ROM/RAM容量が増えるのは、これらIoT向け周辺回路を制御・活用するために必要で、副次的なものと言えるでしょう。

評価ボードLPCXpresso51U68 (OM40005) Development Board価格も¥3,518(DigiKey調べ)であることから、これだけ機能が増えても、従来ARMコア製品と同レベルで入手できると思われます。

LPCXpresso51U68 (OM40005) Development Board
LPCXpresso51U68 (OM40005) Development Board

最新ARM Cortex-Mマイコン動向まとめ

NXP)LPC51U68だけでなく、競合他社Cortex-M0/M0+/M3新製品についても同様の傾向が見られます。最新Cortex-Mマイコンの動向をまとめたのが下記です。

  1. IoTアプリケーションのためコア動作速度を数MHz~100MHz超の範囲で電力消費最適化
  2. USBホスト機能や高機能アナログなど、IoTアプリケーション対応高機能周辺回路を実装

一方、前稿Non ARMコア製品のルネサスMCU動向をまとめると、

  1. 低消費電力16ビットS1/S2/S3コアの使い分けで、きめ細かな電力消費へ対応
  2. アナログ機能やモータ制御機能を追加実装し、IoTアプリケーションMCUへ展開

どちらも、無線通信やセキュリティの要求が高いIoT MCUに対して、従来の汎用MCU製品のままでは対応しにくく、より具体的なIoTアプリケーションへ向けた機能拡張を行い、セミASSP的なIoT MCU製品となっています。
※セミASSP:汎用MCUをベースに、特定アプリケーション向けに調整したMCU。汎用MCU開発に慣れた開発者が、特定アプリ開発に臨む時、ASSPに比べ馴染みやすく開発障壁が低い。

ARMコア製品が柔軟性や拡張性に富み、一方で、Non ARMコア製品のルネサスもIoT向きに汎用MCUを調整しています。いずれにしても汎用MCUは、よりアプリケーション向きのMCUへ変化しつつあります。

IoT MCUを特徴付ける3要素

IoT MCUは、以下3要素から構成されると考えると理解が容易になります。

  1. IoTアプリケーション対応高機能周辺回路
  2. MCUコア
  3. 汎用周辺回路:タイマー、GPIO、UART、I2C、一般的ADC

先ず、どのようなアプリケーションにMCUを使うかで「IoTアプリケーション対応周辺回路」が実装されます。例えば、USBホスト機能が必要なアプリであれば、NXP)LPC51U68などです。

次に、そのアプリケーション周辺回路制御に十分な動作周波数や性能をもつ「MCUコア」が決まります。

最後に、「汎用周辺回路:タイマーやGPIO、UART、I2C回路」の実装数がアプリケーションに対して十分か調べます。

IoT MCUの3要素
IoT MCUの3要素。NXP)LPC51U68の分解例と開発方法。

多くのアプリケーションに広く対応できる汎用MCUの汎用周辺回路のみで開発できるアプリケーションであれば、実績が多い汎用MCUを選び、IoTに必要となる無線やセキュリティ機能を外付け部品で構成すると良いと思います。

より具体的なIoTアプリケーションに対応する場合は、IoTアプリケーション対応周辺回路を持つ各社の新製品MCU(セミASSP MCU)を選び、開発するのが良いと思います。

「IoTアプリケーション対応高機能周辺回路」とは、文字通りアプリに応じた開発や応用、最適化が必要です。各社はこのIoTアプリケーション対応周辺回路に対して、ライブラリやアプリケーションノートを提供しますので、開発はそれらを応用、流用するとリスクが低くなります。

一方、「MCUコア」と「汎用周辺回路:タイマーやGPIO、UART、I2C回路、一般的なADC」は、既存の開発ソフトウェアやハードウェアがほとんどそのまま使える可能性が高い部分です。

IoT MCUを早期開発するには、この既存ソフトウェアやハードウェアを流用し、より多くの時間をIoTアプリケーション開発へ配分する方法が適します。弊社マイコンテンプレートは、この汎用開発部分に役立ちます。ご活用ください。

マイコンテンプレート活用プロトタイピング開発(3)

マイコンテンプレートを使ったプロトタイプ開発の第3回は、シールド基板Joystick機能のテンプレート追加です。

Joystick for HMI (Source:Adafruit)
4方向入力とプッシュ操作ができるジョイスティック(出典:Adafruit)

要旨

STM32Fx用テンプレートを題材にしましたが、他テンプレートでも同様です。説明が長くなったので、先に本投稿の開発手順と要旨を示します。

  1. シンプルテンプレートをRenameし、「機能追加用テンプレートを作成」
  2. API作成ツール、サンプルソフトやレファンレンスなどを利用し、「追加機能を理解」
  3. 「追加機能ファイルを作成」し、追加処理をプログラミング
  4. ユーザ関数起動「Launcher()で追加処理を起動し、デバッグ」

要旨:マイコンテンプレートをプロトタイプ開発に利用すると、既に基本動作する枠組みやライブラリが準備済みなので、機能追加の開発効率が上がり、追加処理が1ファイルに閉じ込められるため、ソフトウェア資産として流用性も高まる。

シールド基板構成

機能追加に使うシールド基板は、SDカードに液晶表示画像が保存されており、カードから画像を読込み、それを液晶に出力する、これにMCUのSPIインタフェースを使う構成です。Joystickは、液晶表示の選択肢を入力するためのHMI(Human Machine Interface)に使います。

Shield Fabrication Print
TFT液晶出力、SDカードのデータ入出力、Joystickでの5SW入力、これら3機能ハードウェアを追加するシールド基板(Source:Adafruit)

回路図からも解るようにJoystickは、シールド基板のSDカードやTFT液晶とは完全に別物です。1個のJoystickで「上下左右」と「プッシュ」の5入力を1本のADC入力だけで処理できますので、効率的で低価格なHMI実現手段の1つと言えます。

本投稿は、このJoystickのADC入力を弊社STM32Fxシンプルテンプレートへ追加し、ADC_Joystickプロジェクトを作り動作確認します。

関連投稿:テンプレート活用プロトタイピングの開発方針:第1回ソフトウェア概要:第2回

テンプレート変更準備

今回は、初めてですので、少し丁寧に説明を加えます。

最初に、ワークスペースへシンプルテンプレートを取込み、これに「変更を加える前」にプロジェクト名をADC_JoystickへRenameします。

Template Project Rename
Template Project Rename

Renameを選択すると、プロジェクト名の入力ダイアログが現れますのでADC_Joystickと入力します。

さらに、「手動」でcfg/ico/pdf/txtの4ファイル名をADC_Joystick. cfg/ico/pdf/txtに変更します。

最後に、ADC_JoystickをClean ProjectとBuild Projectすると、正常にコンパイルされ、シンプルテンプレートからADC_JoystickへRenameが成功したことが確認できます。

Tips:リネームプロジェクト名は、「追加周辺回路_装置」としました。プロジェクト名を見れば、時間が経過した後でも、内容が解りやすいメリットがあります。

関連投稿:Eclipse IDEプロジェクトのImportやRename方法

また、レファレンスプロジェクトとしてTFTシールドサンプルソフトもワークスペースへ取込みます。方法は、
File>Import>Existing Projects into Workspaceで
Repository>STM32Cube FW F0 V1.9.0>Project>STM32F072RB-Nucleo>Demonstrations>STM32F072RB-Nucleoを選択しImportしてください。

以上で、2プロジェクトがワークスペースへ入り、ADC_Joystickに変更を加える準備ができました。

Renamed to ADC_Joystick Project
ADC_JoystickプロジェクトとTFTシールドサンプルソフト(STM32F072RB-Nucleo)がワークスペースへ入る

STM32CubeMXでADC追加

Joystickで利用するADCを、STM32CubeMX(以下CubeMX)でADC_Joystickプロジェクトへ追加します。

CubeMXを起動し前章で手動変更したADC_Joystick.icoをLoadすると、シンプルテンプレートのCubeMX設定がロードされます。これに周辺回路ADCを追加します。

ADCのIN8に☑を入れると、PB0ピン、PB.00を使うことが解ります。このPB.00がArduinoコネクタA3に接続されており、Joystickのアナログ値がADCへ入力されます。

STM32CubeMX Setting
STM32CubeMX Setting

通常は、ここでADCを利用するサンプルソフトなどを参照し、詳細設定を調べます。しかし今回は、もっと直接役立つレファレンスプロジェクトのADC関連ソースを読みます。

※レファンレンスソースは一部しか抜粋しませんので、解りにくいと思いますが、文章が分かれば十分です。

TFT_ShieldDetect Logic
TFT_ShieldDetect Logic

ADC関連は、最初にmain.cのL120でシールド基板の実装有無を確認し、実装(SHIELED DETECTED)ならばTFTを初期化(BSP_LCD_Init())し、SDカードから画像読込み(SDCard_Config())を実行します。

L116のコメントから、PB.00電圧レベルで基板有無を確認していることが解ります。そこで、ShieledDetect()を読むと、アナログ入力として使う予定のPB.00を、ここでGPIO入力+プルダウンへ初期設定した後、電圧レベルを読込み、0以外で基板実装と判断しています。

PB.00をアナログ入力に設定しているのは、TFT_DisplayImages()の中、L304のBSP_JOY_Init()です。

つまり、最初にPB.00をGPIO入力+プルダウンに設定し、入力が0以外で基板実装と判断し、次に同じPB.00をADCのIN8に再設定(stm32f0xx_nucleo.cのL841)します。アナログ入力では基板有無の判定ができないのです。
プルダウンが設定できるGPIO入力なら基板無し(電圧レベル=0)の判定が可能です。また、ADC設定は、CubeMXのデフォルト設定で良いことも解ります。

Tips:「同じピン機能をADCからGPIOに切替えて実装有無を判断するテクニック」は、今回だけでなく他でも使えるので覚えておくと役立ちます。

以上、レファンレンスからADCの使い方が解りました。CubeMXへADC追加後のConfigurationタブを示します。CubeMX ProjectをセーブしGenerate Code、Generate Reportを実行し、初期化コードを生成して下さい。

STM32CubeMX Configuration
STM32CubeMX Configuration

シールド基板実装判定GPIOとADCの切り替え

ADC_Joystickのmain.cには、PB.00のADC初期化コードMX_ADC_Init()がCubeMXにより自動追加されます。では、どこで基板実装有無を確認するかというと、L232のUserInit()で行います。

UserInit()
テンプレートに準備済みのUserInit()

UserInit()は、無限ループ実行直前に、何らかの独自設定をユーザが行うための関数です。テンプレートには初めからこの関数が準備されています。

Shield Detection Logic in UserInit
Shield Detection Logic in UserInit

UserInit()のL128で基板実装判定のため、PB.00を再度GPIOに設定し直します。そして、判定結果をUSB経由のCOMポートへ出力します。テンプレートには、COMポート出力機能がありますので、簡単に判定結果が出力できます。

基板実装を確認したら、L146でPB.00を再再度ADCに設定します。

つまり、PB.00はCubeMXでADCとして初期設定しますが、UserInit()で基板実装判定のためGPIOに再設定し、実装済みならもう1度ADC初期設定をします。ADC初期設定コードは、CubeMX自動生成コードですので、将来ADC設定に変更が生じたとしてもCubeMXを変えれば良いだけで、ソースはそのまま使えます。

後は、ADCの値を読んで、stick位置を判断し、その結果も基板実装結果と同様、COMポートへ出力すればJoystick関連の追加処理は完成です。

STM32F0とSTM32F1のBSP

BSPはBoard Support Packageのことで、評価ボード用のライブラリです。
STM32F0用は、Drivers>BSP>stm32f0xx_nucleo.c/hです。STM32F1用は、stm32f1xx_nucleo.c/hです。

関連投稿:BSP解説は、コチラの投稿のSTM32Fxファームウエア構成やHAL Examplesの章を参照。

Joystickのstick位置判断関数BSP_JOY_GetState()もこのBSPで提供されますが、面白いことに、F0用とF1用のBSP_JOY_GetState()の閾値が異なります。どちらも同一条件で動作するので異なる必要はありません。また、if~else if~else文で分岐するのも、処理時間が長くなります。

Difference Between F0 BSP_JOY_GetState() and F1
Difference Between F0 BSP_JOY_GetState() and F1

そこで、F0用のより広い判断閾値を使い、if文とgoto文で分岐する方法を用いました。

Stick Position Judgement
Stick Position Judgement

ADC_Joystickプロジェクト動作確認

Joystickのみ機能追加する場合に備え、stick位置のCOMポート出力、STM32F0xとF1xで共用のための#ifdef~#endifなどの関連処理を新規追加のJoystick.cファイルに集め、ADC_Joystickプロジェクトへ加えました。

ADC_Joystick File Configuration
ADC_Joystick File Configuration

シールド基板を実装すると評価ボード上の青SWが操作できませんので、ユーザ関数を起動するLauncher()のSwScan()はコメントアウトし、代わりに40ms周期起動にstick位置の取得判断関数:JoystickSacn()を入れました。

完成したADC_Joystickプロジェクト動作中のCOMポート出力例を示します。

ADC_Joystick COM Output Example
ADC_Joystick COM Output Example

まとめ

STM32Fxシンプルテンプレートを使って、シールド基板のJoystick機能のみを追加しました。

長文説明になりましたが、実際に行った処理は、下記のようにとても簡単で単純です。

  1. テンプレートプロジェクトをRenameし、ADC_Joystickプロジェクト作成
  2. STM32CubeMXで、作成プロジェクトへADC機能を追加
  3. レファレンスプロジェクトのADC関連部分を読み、使い方と設定理解
  4. 機能追加/削除を容易にするため、Joystick.cファイルを新規追加し、ADC関連処理記述
  5. Launcher()で起動し、必要に応じて処理結果をCOMポートへ出力し、追加処理の動作確認

テンプレートには、COMポート出力やUserInit()などの基本的な処理と枠組み、BSPなど開発に必要となるライブラリが既に準備済みなので、「追加する処理にのみ集中して開発できる」ことがお判り頂けたと思います。

Joystickファイルを新規追加すると、機能の追加/削除、他プロジェクトへの応用も簡単です。ユーザが手動で変更する箇所は、ユーザ関数を起動するLauncher()やUserInit()、COMポートへの出力メッセージ程度で、初期化コードなどはAPI作成ツールSTM32CubeMXが自動的に生成します。

マイコンテンプレート活用プロトタイピング開発(2)

マイコンテンプレートがプロトタイピング開発に適すシリーズ投稿第2回は、開発に活用流用できるソフトウェア=ライブラリの概要を示します。説明するライブラリが下記です。詳細説明が必要になった時は、それに応じて追記するので、今回は概要を示します。

  1. Arduinoシールド付属C++ライブラリ
  2. SW4STM32付属デモソフト
  3. STM32CubeMX:初期化Cコード生成ツール
  4. HAL:Hardware Abstraction LayerとBSP:Board Support Package
  5. Middleware Components:ミドルウェア:FatFs
  6. STMicroelectronicsアプリケーションノート
  7. STMicroelectronics Communityやネット情報

ソフトウェアは、ドライバーやミドルウェアなど階層構造や使い方に応じて色々な呼び方がありますが、本投稿では、開発に使える可能性のあるソフトウェアや情報を、全てライブラリと呼びます。つまり、開発者自らが開発するソフトウェアと、その開発に使えるライブラリの2つに大別して説明します。

開発着手時は、各ライブラリ概要をおおよそ把握し、自分で開発するソフトのイメージが捉えられれば十分です。後はそのイメージをソフトの形にしてテンプレートに追加すれば、プロトタイピング開発完成です。

1.Arduinoシールド付属C++ライブラリ

Arduinoは、オープンソースハードウェアのシングルボードコントローラです。Arduinoコネクタにシールド基板を実装すれば、誰でも簡単に機能追加できるのがウリです。もちろんハード制御に必須なソフトウェア=ライブラリもシールド基板とともに提供されます。

TFTシールド基板ライブラリは、ArduinoのAPIを利用しC++で記述(左下:shieldtest参照)されています。Arduino IDEにこのライブラリを追加しさえすれば簡単に基板の動作確認ができ、ソース変更も容易です。しかし、これを対象マイコン用に変更するのは、簡単ではありません。API変更とC++が問題です。

Adafruit TFT shieldtest Sketch running
Adafruit TFT shieldtest Sketch running

2.SW4STM32付属デモソフト

SW4STM32には、TFTシールド基板のデモソフトが付属しています。UM1787にデモファームウェアが紹介されており、利用や変更、修正など開発者が自由に使って良いライブラリです。

TFT Shield Demonstration running (Source:UM1787)
TFT Shield Demonstration running (Source:UM1787)

但しこのデモソフトは、デモの表示画像やテキストの変更は簡単でも、一部機能の切出しや新機能の追加、例えばUART入出力処理の追加などは容易ではありません。また、最新の開発ツールSTM32CubeMXベースで開発されたのもでもなく、エキスパートが自作したものです。

このデモソフトのような既存ファームウェアがあっても、そのまま流用活用しにくいというのは、MCUソフトウェア開発ではよくある話です。既存ファームウェアやライブラリの解析に手間と時間がかかるため、新たな環境で新たなソフトウェアを開発したほうが早く済むこともよくあります。

ナゼか? それは、流用性や資産とすることを念頭に置いてソフト開発をしないからです。MCU処理能力の低さやメモリ量の少なさが主な原因ですが、これらは今後改善されます。MCUソフトも流用性を重視し、ソフトウェア資産、部品化を考慮した開発が今後必要です。

3.STM32CubeMX:初期化Cコード生成ツール

STM32CubeMXは、STM32シリーズの全MCUに対して、GUIでパラメタを設定しさえすれば周辺回路の初期化Cコードを自動生成するツールです。また、SW4STM32を含め全IDE(TrueSTUDO、MDK-ARM、EWARM)で共通に使えるなど守備範囲も広く「STM32ソフトウェア開発の要」です。

UM1718に解説があります。このUM1718のTutorial 2に、MCUはSTM32F4ですが、本開発に使えるSTM32CubeMXの設定方法があります。

関連投稿:STM32CubeMX設定については、コチラの投稿も参照してください。

4.HAL:Hardware Abstraction LayerとBSP:Board Support Package

HALは、文字通りハードウェア隠蔽機能を提供する階層です。CortexコアといえどM0/M0+/M3/M4などハードウェアは異なります。この異なるハードにも関わらずHALが同じAPIを上位層に提供するので、性能不足などでコア変更が生じても同じソフトが流用できる訳です。UM1749に詳しく解説されています。

BSPは、このHALのAPIを組み合わせた評価ボード特有機能のマクロ関数です。評価ボードを制御系にそのまま利用する時に便利です。

HALやBSPを使うとオーバーヘッドも生じます。しかし、流用性向上のメリットの方が大きいと思います。

関連投稿:HALのオーバーヘッドは、コチラの投稿の、“STM32CubeMXの2種ドライバライブラリ”を参照してください。

5.Middleware Components:ミドルウェア:FatFs

FatFsは、MCU向けの汎用FATシステムモジュールでフリーソフトウェアです。MCUハードには依存しないので、どのマイコンでも使えるのが特徴です。FatFs APIを使うと、SDカードなどのファイルシステムに簡単にアクセスできます。

STM32CubeMXでは、MiddleWaresのFatFs、User-definedに☑を入れると使えようになります。

STM32CubeMX MiddleWare FatFs
STM32CubeMX MiddleWare FatFs

6.STMicroelectronicsアプリケーションノート

UM1721は、“Developing Applications on STM32Cube with FatFs”と本開発にはピッタリの内容です。3.3にサンプルソフトがあります。これは、FatFsを使って開発したソフトの単体テストに使えます。

7.STMicroelectronics Communityやネット情報

STMicroelectronics Communityなどのベンダーコミュニティは、開発者同士の情報交換、質問の場です。各ベンダーは、提供ツールのバグ情報や更新方針などもこのコミュニティーから収集していますので、時々閲覧すると参考になります。開発でつまずいた時など解決方法が見つかることもあります。

また、検索エンジンでは様々なネット情報が得られます。最新情報などを取集すると、開発動向の把握も可能でしょう。

開発ソフトウェア構成とイメージ

今回のソフトウェア開発に役立つライブラリ概要を示しました。

直ぐにソースコードを書きたい気持ちを少し我慢して、ほんの少し事前調査をすると、視野が広がり使えそうなライブラリの見当もつきます。使えるモノを流用すれば、より重要箇所に集中できます(前回投稿の「選択と集中」ができます)。

本開発は、SPIシールド基板で追加する3機能毎にSTM32CubeMXを用いてソフト開発し、テンプレートへ追加します。また、流用性を上げるため追加機能毎にファイル化し、単体機能の追加削除も容易な構成とします。これをまとめたのが前回投稿の開発方針図です(再掲します)。

Development policy
初期設定生成ツール:STM32CubeMXや、評価ボード開発支援ライブラリを活用しテンプレートへ機能追加

MCUのライバル

プレッシャーをかけるつもりはありませんが、競合他社のMCUだけがライバルではありません。

ArduinoコントローラやRaspberry Pi 3などのMPUは、後発の利点を活かし、ソフトウェア/ハードウェア開発が、誰でも早く簡単にできる工夫が施されています。どちらも低価格で開発環境が整います。MCU開発者の方は、是非どちらか試して、MCUに比べ開発の簡単さを実感してください。

MCU Rivals_R1
MCUのライバルは、競合他社だけでなく、ArduinoコントローラやRaspberry Pi 3などもある。

制御系

特徴

開発障壁

ソフトウェア流用性

MCU

低消費電力
アナログ/デジタル周辺機能豊富

高い

低い

Arduino/Genuino

オープンソースハードウェア基板
豊富なシールド基板で機能追加が容易

低い

高い

Raspberry Pi 3 B/B+

OS搭載シングルボードコンピュータ
動画再生や複雑な技術計算も可能

とても低い

高い

最新Arduinoの動きとしては、SonyのSPERSENSEなどがあります。また、Raspberry Pi 3 B+では、コア速度やLAN高速化、PoEなどのIoTに向けた性能向上も図られています。

MCU評価ボードにArduinoコネクタの採用が増えたのは、豊富なシールドハードの簡単追加が目的です。また、ARM CMSISもMCUソフト流用性を高める方策の1つです。

関連投稿:ARM CMSISの目標については、コチラの投稿の、“CMSIS”を参照してください。

CMSIS実用化に伴い、MCUソフトウェア開発者も、個人レベルでソフト資産化と各種ライブラリ活用技術を身につけないと、先行するArduinoやRaspberry Piへ顧客が逃げてしまいます。

逆に、ArduinoやRaspberry Piのソフトウェアやライブラリを積極的にMCUへ流用するアプローチも(簡単にできれば)良いと思います。

いずれにしても、MCUソフトウェア開発は、既存ライブラリや様々な資産をより活用して、開発効率化を上げることが必要でしょう。

マイコンテンプレート活用プロトタイピング開発(1)

Adafruit 1.8 Color TFT Shield with microSD and Joystick
Adafruit 1.8 Color TFT Shield with microSD and Joystick (Source: Adafruit)

前投稿で、プロトタイピング開発に、マイコンテンプレートが適すと説明しました。その理由は、テンプレートの既に出来上がった汎用処理へ、顧客要求機能を追加しさえすれば、早期に顧客ソフトウェア開発がほぼ完成するためです。つまり、顧客仕様の開発に、より集中できるのです。

働き方改革と、今後も増える仕事量、このバランスを開発者が保つには、選択と集中です。
集中すべきは顧客独自仕様、それ以外は既存資産をより流用活用するテクニックを身につけることです。

具体的にこのこと説明するため、今回から数回に分けて、マイコンテンプレートと評価ボードに、上図Arduino SPI接続シールド基板を追加する開発例を使って、プロトタイピング開発にテンプレートが適すことを説明します。

テンプレート活用開発例の前提条件

途中、別内容の投稿もありますので、3カ月程度の期間で7~10件程度のシリーズ投稿を予定しております。

STM32F072RB/Cortex-M0コアを用いますが、STM32FxテンプレートのCortex-M3コア/STM32F103RBでも同様です。また、投稿カテゴリーはSTM32マイコンですが、他マイコンのテンプレートを使用中、検討中の方も参考にしてください。

様々なシールド基板がある中で、SPI接続シールドを選択した理由は、マイコンでも従来のGPIOによるLCD表示から、よりリッチなSPI:Serial Parallel InterfaceによるカラーLCD表示に変わりつつあることが背景です。詳細は、コチラの投稿を参照してください。

Arduino SPI接続シールド基板構成

Adafruitの1.8“カラーTFTシールド(128×160ドット)、microSDカードスロットとジョイスティック搭載基板(3,680円)は、秋月電子から入手できます。

Shield Fabrication Print
3ハードウェア機能を追加するSPIシールド基板 (Source:Adafruit)

このシールド基板は、TFT液晶出力、SDカードのデータ入出力、Joystickでの5SW入力、これら3機能を、マイコン評価ボードArduinoコネクタに装着するだけでハードウェアの追加ができます。

そこで、テンプレートへシールド3機能のソフトウェアを追加していきます。これにより、Joystickのみ、SDカードのみ、あるいは全機能の追加などいろいろなバリエーションの開発例を説明します。

サンプルソフト、レファレンスソフト構成と開発方針

本開発に使えるサンプルソフトや既存ライブラリを一覧にし、開発方針を図示しました。

Development policy
初期設定生成ツール:STM32CubeMXや、評価ボード開発支援ライブラリを活用しテンプレートへ機能追加

Arduinoのシールド基板には、C++ライブラリが付属していますが、これはArduinoでの動作が前提なので、マイコンにはそのまま使えません。

上手いことに開発環境SW4STM32には、使用するArduino SPI接続シールド基板のデモサンプルソフトが付属しています。但し、このデモソフトは、エキスパートが自作したExamples and Demosなので、部分的に機能を切出そうとすると、解析や変更に手間取ります。

せっかく初期設定生成ツール:STM32CubeMXや、評価ボード開発支援ライブラリのBSP:Board Support Packageがあるのですから、これらツールやライブラリを活用しない手は無いでしょう。
そこで、図示したようにデモソフトは、レファレンスとして活用し、極力STM32CubeMXやBSPを使ってエキスパート自作ソフトと同じものを、初心者でも開発できることを開発方針とします。

シリーズ投稿の予定内容

実際に着手しないと投稿内容は確定しませんが、一応の目安として、下記内容の投稿を目標、予定しています。

第1回、シールド基板、サンプルソフト、レファレンスソフト構成と開発方針(←今回の投稿)
第2回、BSP、FatFs、STM32CubeMX、デモソフト、アプリケーションノートなどの活用/流用可能ソフトウェア概要
第3回、Joystick機能のテンプレート追加:Joystickのみ追加希望の方は、ココまでで開発できることを目標にします。
第4回、SDカードリード/ライト機能のテンプレート追加:SDカードのみ追加希望の方は、ココまでで開発できることを目標にします。
第5回、TFT表示機能のテンプレート追加:TFT表示のみ追加希望の方は、ココまでで開発できることを目標にします。
第6回、SPIシールドテンプレート構成:シールド3機能全てを追加する場合のテンプレート構想
第7回、SPIシールドテンプレート開発:シールド基板活用のTipsなどの資料も含むテンプレート化を目指します。

このように、現在のGPIO LCDを使ったテンプレート応用例Baseboardテンプレートに加えて、最終回にはSPIシールドテンプレートとして発売できれば完成です。ご期待ください。

Yano E plus 2018.5にHappyTech掲載

シンクタンクの矢野経済研究所様の月刊誌Yano E pulsの2018.5、注目市場フォーカス:MCU(マイコン)市場の6-7に、弊社HappyTechが掲載されました。MCUの現状、2021年までの市場予測、ベンダー各社動向などがまとめられたレポートです。お近くに冊子がある場合には、ご覧ください。

ARMが考えるIoTの3課題と4施策

ARMはMCUコア開発会社ですが、製造はしません。開発したコアのライセンスをMCUメーカーへ供給し、このコアに自社周辺回路を実装し各メーカーがMCUデバイスを製造販売します。コア供給元のARMが考えるIoTの3つの課題記事を紹介します。

ARMの課題と施策

本ブログ掲載MCUでは、NXP、STM、CypressがARMコア、ルネサスがNon ARMコアです。いまやARMコアがMCU世界のデファクトスタンダードです。つまりARMの考えは、MCUメーカー各社に多大な影響を与えると言うことです。

ARMが考えるIoTの課題が、「デバイスの多様性」、「エンドツーエンドセキュリティ」、「データの適切な利用」の3つです。そしてこれら課題に対して、「Cortex」、「Mbed OS」、「Mbed Cloud」、「PSA:Platform Security Architecture」の4つの施策で対応します。
課題と施策の内容は、Arm、IoTプラットフォーム「Arm Mbed Platform」アピールの記事に説明されています。

上記記事で、最も印象に残ったのが、ARM)ディペッシュ・パテル氏の下記コメントです。

「専門知識がないユーザーでも、デバイスメーカーが提供するデバイスを購入して、Mbed OSを使えばすぐに利用できる。重要なことはシンプルであることだ。」

MCU開発者の課題と施策

さて、これらARMの施策に対してエンドポイントMCUソフトウェア開発者である我々の課題と施策は何でしょうか?

ARMの課題「デバイス多様性」や「セキュリティ」には、Cortexコア習熟や、セキュリティ理解などが必要です。また、最近更新が盛んなMbed OS習得も加わるでしょう。

記事記載の市場規模は大きくなっても、開発時間はこれまで以上に短く、また、顧客要求も多様化、複雑化するハズです。

従って、従来のような開発方法よりむしろ、スピード重視のプロトタイピング開発が求められると思います。これには、既存ライブラリやサンプルソフト流用、活用技術を磨く必要があるでしょう。前々から言われるソフトウェアの部品化開発手法です。

流用する中身に多少不明な点があっても気にすることはありません。パテル氏コメントの「シンプルであること」を常に念頭に置きながら開発を進めることが重要です。シンプルであれば、様々な状況変化へも対応できます。開発が終わった時に振り返ると、不明内容はおぼろげながら見えるものです。

具体的な手段

弊社は、プロトタイピング開発への具体的な実現手段として、ARMコアのNXP、STM、Cypress各社、およびNon ARMコアのルネサスに対してマイコンテンプレートを提供中です。テンプレートと評価ボードを使えば、早期開発着手と汎用開発部分の使いまわしも簡単で、プロトタイピング開発に最適です。

汎用処理が出来上がったテンプレートへ、顧客要求実現の開発部分を組込めばソフトウェア全体がほぼ仕上がる仕組みです。

また、Mbed OSの仲間であるFreeRTOSを例に、マイコンRTOS習得ページもテンプレートサイトに掲載しております。ご活用ください。

マイコン評価ボード2018

マイコン装置を開発する時、ベンダ提供のマイコン評価ボードは重要です。良いハードウェア、良いソフトウェアは、評価ボードをレファンレンスとして活用した結果生まれるからです。

今回は、ARMコア対Non ARMコアという視点で最新マイコン評価ボードを分析します。掲載マイコン評価ボードは下記です(価格は、調査時点の参考値)。

デバッガの2機能

ベンダ評価ボードには、デバッガ付属とデバッガ無しの2タイプがあります。デバッガは、

  1. デバッグ機能:ソースコードのダウンロード、ソースコード実行とブレークを行う
  2. トレース機能:プログラムカウンタ実行履歴を記録する

の2機能を提供します。

トレース機能は、プログラムカウンタ遷移を記録し、ハード/ソフトの微妙なタイミングで発生するバグ取りなどに威力を発揮します。が、本ブログで扱うマイコンでは利用頻度が低く、サポートされない場合もありますので、デバッグ機能に絞って話を進めます。

各社が独自コアマイコンを供給していた頃は、各社各様のデバッガが必要でした。しかし現在は、ARMコアマイコンとNon ARMコアマイコンの2つに大別できます。

ARMコアマイコンの評価ボード

ARMコア評価ボードは、ARM CMSIS規定のSWD:Serial Wire Debugというデバッグインタフェースでコアに接続します。SWDを使うと、他社ARMコアとも接続できます。このため、評価ボードのデバッガ部分と対象マイコンを切り離し、デバッガ単独でも使えるように工夫したものもあります。

ARMコア評価ボードの多くは、対象マイコンにSWDインターフェイスのデバッガが付属しています。これは、対象マイコンが変わってもデバッガは全く同じものが使えるので、量産効果の結果、デバッガ付き評価ボードでも比較的安価に提供できるからです。

CY8CKIT-146
SWDデバッガ付属評価ボードCY8CKIT-146 (出典:CY8CKIT-146 PSoC® 4200DS Prototyping Kit Guide)

また、統合開発環境:IDEもEclipseベースを採用すれば、実行やブレークのデバッガ操作方法も同じになり、例え異なるベンダのARMコアでも同じようにデバッグできるので開発者にも好評です。

以上が、マイコンのデファクトスタンダードとなったARMコアとEclipseベースIDEを多くのベンダが採用する理由の1つです。

Non ARMコアマイコンの評価ボード

一方、Non ARMコアマイコン評価ボードは、本来コア毎に異なるデバッガが必要です。そこで、評価ボードには対象マイコンのみを実装し、その購入価格は安くして、別途デバッガを用意する方法が多数派です。

機能的には同じでもコア毎に異なるデバッガは、サポートするコアによりデバッガ価格が様々です。例えば、ルネサスのE1デバッガは、RL78、RX、RH850、V850の4コアカバーで12600円ですが、RL78とRXコアのサポートに限定したE2 Liteデバッガなら、7980円で購入できます(2018年3月の秋月電子価格)。

RL78/G11評価ボードとE1
RL78/G11評価ボードとE1

ルネサスもE1/E2 Liteデバッガ付きのRX用低価格評価ボード2980円を2018年3月に発表しました(マルツエレック価格)。

E1、E2 Liteデバッガ付きRX評価ボード
E1、E2 Liteデバッガ付きRX評価ボード (出典:Runesasサイト)

※RX評価ボードは、無償CコンパイラROM容量制限(≦128KB)に注意が必要です。入手性は良いので容量制限を撤廃してほしいです。

個人でマイコン開発環境を整える時は、購入価格は重要な要素です。マイコンがARMコアかNon ARMコアか、デバッガ搭載かなどにより、評価ボード価格がこのように異なります。

標準インターフェイスを持つマイコン評価ボードの狙い:プロトタイピング開発

最近の傾向として評価ボードの機能拡張に、Arduinoコネクタのシールド基板を利用するものが多くなりました。様々な機能のシールド基板とその専用ライブラリが、安く入手できることが背景にあります。

ARMコア、Arduinoコネクタ、EclipseベースIDEなどの標準的インターフェイスを持つマイコン評価ボードの狙いは、色々なマイコン装置の開発を、低価格で早期に着手することです。既存で低価格なハード/ソフト資産の入手性が良いのが後押しします。

中心となるマイコン評価ボードへ、機能に応じたシールド基板を実装し、早期にデバッグしてプロトタイピング開発し製品化が目指せます。

CY8CKIT-046
Arduinoコネクタを2個持つCY8CKIT-046、緑線がArduinoコネクタ (出典:CY8CKIT-046 Qiuck Start Guide)

ルネサスもEclipseベースのIDE:e2Studioを提供中ですが、これは世界中のEclipse IDEに慣れた開発者が、ルネサスマイコンを開発する時に違和感を少なくするのが主な狙いだと思います。Non ARMルネサスマイコン開発の不利な点を、少しでも補う方策だと推測します。

関連する過去のマイコン評価ボード投稿

あとがき

ルネサス最新汎用マイコンRL78/G11は気になります。従来のRL78/G1xに比べアナログ機能を大幅に強化し、ローパワーと4μsの高速ウェイクアップを実現しています(詳細情報は、コチラ)。開発資料の多くがe2Studioで、CS+ではありません。Non ARMコアなので他社ARM比、特に優れたマイコンの可能性もあります。