NXP新汎用MCU S32K1

NXPセミコンダクターズ(以下NXP)から車載・産業機器向けの、新しい汎用Cortex-M0+/M4 MCU S32K1ファミリが発売中です。
同社の汎用MCUと比べ、何が新しいかを調べました。

S32K1の特徴(汎用MCUとの差分)

セキュリティ強化ARMコアは、Cortex-M23/M33があります。ところが、NXPのS32K1ファミリは、従来のCortex-M0+/M4コアを使います。Cortex-M0/M0+/M3汎用MCUと比べると、差分として以下の特徴があります。

AEC-Q100グレード1規格準拠

AEC-Q100:Automotive Electronics Council、車載用電子部品信頼性の規格化団体の規格AEC-Q100は、世界標準規格で欧米の車載向け集積回路の規格。製品使用温度範囲によりグレード0~3まであり、グレード0が-40℃から+150℃で最も広範囲、グレート1は-40℃から+125℃。

セキュリティ強化ハードウェア内蔵MCU

SHE準拠Cryptographic Services Engine (CSEc) - AES128、セキュアブート、ユニークID

専用IDEのソフトウェア開発

S32 Design Studio(Processor Expert)、無償、コードサイズ制限なし

車載・産業 両方向けの汎用MCUで最低15年供給

S32K11x(Cortex-M0+):S32K116/S32K118(2018/7発売)、評価ボード$49
S32K14x(Cortex-M4):S32K142/S32K144/S32K146/S32K148(2017/12発売)、評価ボード$49/$149

S32K MCUs for Automotive and Industrial Applicationsから抜粋したS32K1ファミリの特徴が下図です。図はAEC-Q100グレード0と表記がありますが、Cortex-M0+のS32K11xは、データシートによるとグレード1です。

S32K1特徴
S32K1の特徴 (出典:S32K MCUs for Automotive and Industrial Applications)

S32K118EVB-Q064はDigiKeyで購入可能

新汎用MCUのセキュリティ強化策と専用IDE:S32 Design Studio(Processor Expert)

IoTでは汎用MCUであってもセキュリティ強化が必須です。現在、対策として3アプローチあります。

  1. 汎用コアMCUに、セキィリティ強化回路を内蔵(本稿)
  2. 汎用コアMCUに、外付けセキュリティデバイスを追加 → 関連投稿:セキュリティ強化デバイス:A71CH
  3. セキュリティ強化コアを採用 → 関連投稿:セキュリティ強化ARMコアCortex-M23/M33

1のメリットは、2と比べ部品点数が少ないこと、3と比べ従来の汎用コア開発との親和性が高く、セキュリティ関連開発が容易になる可能性があることです。

専用IDE:S32 Design StudioのAPI生成ツールは、旧FreescaleのProcessor Expertです。NXPが、なぜ既存LPCXpresso IDEでなく、専用S32 Design studioとProcessor Expertを用いたかは不思議です。が、Processor Expertという優れたAPI生成ツールのことを知っている開発者にとっては朗報になるかもしれません。

S32K1の魅力:車載・産業機器・IoT全共用

現在のS32K1ファミリ想定アプリケーションは下記です。車載・産業向けに別々のS32K1が有るわけではなく共用です。

S32Kアプリケーション
S32Kアプリケーション(出典:車載・産業機器向け Arm® Cortex®ベース S32Kマイクロコントローラ (REV 3.1))

2017~2018年に供給が始まり、最低15年の供給保障、全てに評価ボードもあります。Cortex-M0+とCortex-M4間の接続は、次世代車載ネットワークCAN FDです。

S32K14x(Cortex-M4)がNode MCU化しIoT無線通信機能を実装すれば、S32K11x(Cortex-M0+)をEdge MCUとして利用可能で、S32K1が「車載・産業機器・IoT全てを狙える新しい汎用MCU」に大化けする可能性はあると思います。

関連投稿:Node MCUとEdge MCU、気になる点2の章参照

そのほか、FlexIO、FlexTimerなどの新しい周辺回路も実装されていますので、S32K1を引き続き調査する予定です。

ルネサスのIDT買収とリスク分散

ルネサスエレクトロニクス(以下ルネサス)が米)IDT買収を発表したことは9月13日投稿済みです。
この買収にはいろいろな憶測が報じられています。これらをまとめ、技術者個人でのリスク分散を考えます。

ルネサスのIDT買収関連記事(2018年9月28日現在)

どの記事もルネサスのIDT買収を、社長兼CEO呉文精氏コメントのように肯定的には捉えていません。むしろリスクの方が大きく、買収が成功するかを危ぶむ声さえあります。

IDT技術のルネサス車載MCUへの応用/流用よりも、むしろNVIDAやインテルなど大手半導体メーカーの自動車半導体市場介入に対する衝突回避/防衛が真の買収目的だ、が各記事の主張です。

私は記事内容から、なぜ回避や防衛ができるのかはイマイチ理解できません。ただ巨大な買収額が、経営的な足かせとなる可能性があることは解ります。半導体業界の巨額買収は、ルネサスに限った話ではありません。

かなり昔、デバイス間通信にIDTの2ポートRAMを使った経験があり便利でした。IDT買収の日の丸MCUメーカー最後の生き残り:ルネサスエレクトロニクスには頑張ってほしいと思います。

技術者個人のリクス分散必要性

動きの激しいMCU半導体製品を使う技術者個人が生き残るには、リスク分散が必要だと思います。

例えば、業務で扱うMCU以外の開発経験を持つのはいかがでしょう。万一の際にも通用する技術を個人で準備しておくのです。その際には、手軽で安価、しかも実践応用もできることが重要です。

弊社マイコンテンプレートは、下記大手4メーカー6品種の汎用MCUに対応中です(各1000円税込)。

  • ルネサス)RL78/G1xテンプレート
  • NXPセミコンダクターズ)LPC8xxテンプレート
  • NXPセミコンダクターズ)LPC111xテンプレート
  • NXPセミコンダクターズ)Kinetis Eテンプレート
  • サイプレス・セミコンダクター)PSoC 4/PSoC 4 BLE/PRoCテンプレート
  • STマイクロエレクトロニクス)STM32Fxテンプレート
    ※各テンプレートに紹介ページあり

テンプレートを使うと新しいMCU開発を実践、習得できます。経験が有るのと無いのとでは雲泥の差です。
リクス分散の1方法としてご検討ください。