MCUXpreosso IDEリリース

3月22日、NXPより旧LPCXpresso IDEとKinetis Design Studio IDEを統合した新しいMCUXpresso IDEがリリースされました。見た目や操作感は、LPCXpressoに近く、Kinetis Design Studio:KDSユーザには、かなり違和感があるかもしれません。

MCUXpresso IDE
MCUXpresso IDE

LPCXpressoやKinetis Design Studioと共存可能

LPCXpresso v8.2.2_650やKinetis Design Studio 3 IDEと、新しいMCUXpresso IDE v10.0.0_344は、Windows 10 PC上に共存可能です。MCUXpresso_IDE_Installation_Guideに詳細が記載されています。

LPCXpressoユーザは、旧プロジェクトの移行方法などもこのガイトに記載されていますので参照してください。

KDSユーザは、Processor Expert: PEが実装されていませんので、Software Development Kit: SDKサイトへアクセスし、Build your SDKで評価ボードまたはMCU毎に構成設定し作成後、APIのダウンロードが必要です。しかし、PEほど使い勝手は良くないでしょう。この方法に慣れるか、または、PEのアドインも可能かもしれません。詳細判明しましたら、本ブログに記載します。

LPCXpresso に近いAPI提供方法

IDEのAPI生成/提供方法で示した3方法では、私の予想に反して最も旧LPCXpressoに近く、オンラインで構成設定→IDEへダウンロードしてのAPI利用となりました。このオンラインSDKをIDEへ直接インストールすることもできますが、FreescaleとNXPの合併で多数のMCUをサポートするので、軽いIDEのために、API提供SDKをIDEから切り離したと思います。

MCUXpressoでは、LPCXpressoで使っていたLPCOpenライブラリも内包されており、そのまま使えます。

両社合併で新IDEも折衷的なものです。旧環境に慣れた開発者には、オンラインSDKに慣れるか悩みどころです。特に今春発売されたMCU以外の開発にはメリットが少ないので、Windows 10 1703を待ってからインストールするのが良いかもしれません。

mbed OS 5.4.0のLチカ動作、LPCXpresso824-MAXで確認

四半期毎更新のIoTマイコン向けRTOS、ARM mbed OS 5の最新版5.4.0がリリースされました。このmbed OS 5を使って、ARM mbed開発環境でBlinky:Lチカサンプルプログラムを、LPCXpresso824-MAX評価ボードで動作確認しました。

ARM mbed開発環境

ARM mbed開発環境は、オンラインでコンパイル環境が提供されます。ブラウザさえあれば、統合開発環境:IDEをPCへインストールすること無しにソフト開発が可能です。コンパイル出力を、USB経由で評価ボードへダウンロードすれば、動作確認も簡単です。

ARM mbed開発環境
ARM mbed開発環境

mbed OS 5が動作するCortex-M0+評価ボードは、現在6種あります(全74種対応中)。

mbed OS 5.4.0のBlinkyサンプルとFreeRTOS v8の比較

この6種評価ボードに、FreeRTOSで使用中のLPCXpresso824-MAXもありますので、mbed OS 5でLチカサンプルプログラムを作成し、FreeRTOSのそれとソース比較しました。

RTOS Blinky Comparioson
RTOS Blinky Comparioson

mbed OS 5は、Cをオブジェクト指向へ拡張したC++言語で記述します。

ハード初期設定などは、評価ボード選定時に(別の個所で)済ませるので、記述ソースはFreeRTOSに比べて少なくなります。FreeRTOSのSuspendedは、mbed OS 5では、waitingに相当します。また、mbed OS 5 APIの方が、全般的に短く記述できます。

mbed開発環境は、直ぐに試せて取っ付き易い反面、ボード差や詳細なRTOS処理内容が隠される(見えない)気がしますが、本来のアプリ早期開発には、こちらの方が細かいことは気にせずに良いのでしょう。また、ボード間の移植性も高まります(次章CMSISを参照)。

両RTOSのLチカリソース使用量比較は、止めておきます。FreeRTOSの方はDebug出力で、一方、mbed OSの方は(多分)Release出力で条件が違うと思うからです。ARM mbed環境のデバッグ方法は、いろいろありそうなので、今後調査する予定です。

CMSIS

CMSIS Structure
CMSIS Structure

CMSIS:Cortex Microcontroller Software Interface Standardは、Cortex IPコア開発元のARM規定のソフトウエア規格で、図が全体像(v4版)です(シムシスまたはセムシイスと読むようです)。最上位アプリケーションと最下位Microcontrollerの間に、7種のCMSIS-xyzを規定します(CMSIS-RTOSなどCMSIS Software Packの緑色領域)。

CMSISの目的は、アプリ側(青緑領域)から見えるハードウエアCortexコア(灰色領域)の隠蔽です。ARM Cortexコアを使うMCU各社が、このCMSIS準拠でソフト開発すれば、各社間のアプリ移植問題は解決します。つまり、CMSIS準拠アプリならば、例えARMコア以外であっても、全てのMCUで同じアプリが動作するということです。

ARMは、Cortex IPコア販売でMCUハードウエアのデファクトスタンダードになりました。CMSISは、よりCortexコアを普及させ、さらにMCUソフトウエアのスタンダードを狙うARM戦略の1つでしょう。

本家本元のARMが開発するmbed OS 5は、CMSIS-RTOS準拠のAPIを持ちます。その結果が、Lチカソースにも表れていて、ボード移植性が高いのです。

弊社マイコンテンプレートも、図のCode Templateと同等!になれば、良いのですが…。

PSoC 6続報

MONOist組み込み開発ニュースに、PSoC 6と他社製品との性能、消費電力の比較が掲載されています(出典:「業界最小」の消費電力でセキュリティも、サイプレスがIoT向け「PSoC」を投入)。

PSoC 6の目標

「ある程度のシステム制御ができる性能+低消費電力+セキュリティ、これらの同時実現」というPSoC 6の目標のために採用された40nmプロセス技術とデュアルARMコアにより、PSoC 6の他社比、優れた性能が解ります。

PSoC 6 Comparison Table1
PSoC 6 Comparison Table1(記事より)
PSoC 6 Comparison Table 2
PSoC 6 Comparison Table 2(記事より)

青字が性能同等、または、より優れた項目を示しています。PSoC 4でも採用中の高性能CapSenseやアナログコンポーネント、多くのGPIO数、そして100MHz動作のCortex-M0+、ピーク時257DMIPSなど、弊社ブログ対象の従来MCUの性能枠を大きく超えるものです。

1MB ROM、288KB RAM、8KB キャッシュの意味

ディアルコアで、1MB ROM、288KB RAM、8KB キャッシュものリソースを持つPSoC 6制御には、RTOSが必要になると思います。MCU開発も、よいよOS必須時代になるのでしょうか?

PSoC Creator News and InformationにNew FreeRTOS on PSoC 4 port が掲載されています(PSoC Creator 4.0のStart Pageからもアクセス可能)。弊社マイコンテンプレートで使ったCY8CKIT-042 評価ボードへも適用できそうです。ARMコアなので、mbed OS 5も気にはなりますが、FreeRTOSですので、RTOSへの備え記事が、理解に有効に活用できるでしょう。

弊社自作FreeRTOSサンプルソフト状況

RTOSへの備え記事は、LPCXpresso 824-MAXを使ってFreeRTOSサンプルソフトを自作しています(Lチカ、Q-通信、セマフォ同期、ミューティックス排他制御の4種)。

この自作サンプルを横展開してLPCXpresso 812/812-MAX、LPCXpresso 1114/5へ適用する予定でした。しかし、LPCXpresso 824-MAXで動作するサンプル(勿論GPIOとLPCOpenライブラリのみ変更)が、Lチカを除いて他の評価ボードでは動作確認ができないのが現状です。

原因が(僅か数十行の)自作サンプルにあるのか、それとも、それ以外かの見極めも、結構大変です。FreeRTOSもv9では、スタティックなセマフォ、ミューティックス割付ができるなど改良が進んでいるのでデバッグには良さそうですが、現状のv8は未だ非対応です。

LPCXpresso 824-MAX版だけでもFreeRTOSサンプルソフトを無償リリースするか、それとも、当初の予定どおり全評価ボード対応として問題解決後リリースするか3月末を目途に検討中です。

Bluetooth 5.0対応のIoT向けマイコンPSoC 6発表

3月14日のEE Times Japanに“Cypress、低消費でより強固なセキュリティ実現”という記事が掲載されました。この記事から、2017/4Q(10月~12月)量産予定のCypressの新しいIoT MCU、PSoC 6の特徴をまとめました。

PSoC 6の特徴

  • Cortex-M4+Cortex-M0+ のデュアルARMコア
  • プロセス技術にウルトラローパワー40nm SONOS採用(従来は130nm)した結果、Cortex-M0+:15uA/MHz、Cortex-M4:22uA/MHz、ローパワーモード動作電圧:1.1V、ウルトラローパワーモード動作電圧:0.9Vを実現。消費電流は、下表参照。
PSoC 6 Current consumption
PSoC 6 Current consumption(記事より)
  • ハードウエアでのセキュア データストレージ機能を備えたTEE : Trust Execution Environment実装
  • 暗号化アルゴリズム:楕円曲線暗号(ECC)、AES(Advanced Encryption Standard)、ハッシュ(SHA-1/2/3)ハードウエア実装
  • Bluetooth Low Energy 5.0対応
  • 評価ボード:PRoC 6 BLE Pioneer Kit(CY8CKIT-062-BLE)は75米ドル。
    弊社マイコンテンプレート使用中のPRoC 4 BLE Pioneer Kit (CY8CKIT-042-BLE)は49米ドルです、ディアルコアを考慮するとお買い得?

ハードによるセキュリティ機能はIoT MCUに必須

IoTマイコンにARMコアを使う場合、新しいCortex-M23/33コアによるアプローチと、従来コアにTEEなどのセキュリティ機能を付加したアプローチの2つがありそうです。CypressのPSoC 6は、後者です。

いずれも、ハッキングやウイルス対策に、ハードによるセキュリティ対策は必須です。私個人の感触では、どの程度の処理を MCUで行うかにもよりますが、たとえ専用セキュリティハードを追加したとしても、Cortex-M0/M0+/M23クラスの処理能力では、IoT通信制御だけでも重すぎるのではないかと思います。

そこで、より能力の高いCortex-M33やCortex-M3、M4を使うか、M0クラスとのディアルコア化も解として有力かもしれません(コア性能差は、コチラを参照、Cortex-Mxの特徴はコチラを参照)。

PSoC 6はBluetooth 5.0とデュアルコアでしたが、IoT通信規格の決定だけでなく、MCUアーキテクチャ、これら両方の観察がIoT MCU選択に必要になりそうです。

RTOSへの備え:第3回、タスク間データ通知、同期、排他制御

各タスクが独立=バラバラで動作する場合には、第2回に示したスケジューラーのRunningの切り替えのみでもRTOSを使ったマルチタスクとしては十分機能します。実際、LPCXpresso付属のfreertos_blinkyサンプルソフトを理解するには、第2回までの説明で十分です。

しかし、あるタスクの結果を待って別タスクが動作するような場合には、結果の待ちや通知、タスク間の同期が必要です。今回は、RTOSがどのようにこれらタスク間のデータ通知、同期を行っているかを解説します。

これらの技術を習得すれば、殆ど(7割以上)のソフト開発をFreeRTOSでカバーできるようになります。つまり、ここがRTOS習得の山場と言っても良いでしょう。少し量が多いのですが、ご勘弁を…。

初めに、状態遷移図のSuspendedによるタスク間の待ちや同期を行う仕組みを説明し、次に具体的な方法を説明します。

Suspendedの役目

第2回で示した状態遷移図のSuspendedが、タスクの待ちを実現します。

タスクAとタスクB間の通知や同期には、タスク実行中に別タスクの結果を待つことが必要となります。タスクAに待ちが発生した時は、vTaskSuspened()のAPIを使ってSuspendedへ移行し、タスクBの結果を受け取ると、RTOSがvTaskResume()のAPIを使ってタスクAをReadyへ戻します。Suspended中も第2回で示したBlocked同様、MCU能力を消費しませんので、待ち期間中も他のタスクがRunningすることができます。

以上がSuspendedによるタスクの待ちや同期を行う仕組みの簡単な説明です。Blockedと似ていることが解ると思います。違いは、BlockedがRunningからのみ遷移するのに対し、どの状態からでもSuspendedへ遷移できる点です。次にRTOSでの具体的な方法を示します。

FreeRTOSのタスク間データ通信、同期、排他制御の方法

RTOSを使わない通常ソフトの場合は、ユーザが定義するメモリ経由で、変数や結果の通知をユーザ自身が行います。また、割込みにより同期が可能です。弊社マイコンテンプレートもこの方法を使っています。

FreeRTOSを使うソフト開発の場合は、
タスク間のデータ通信は、           Queues:キュー、
タスク間の同期は、                      Semaphore:セマフォ、
タスク間の排他制御は、               Mutex(=mutual exclusion):ミューティックス、
を使います。

Queues:キューによるタスク間データ通信

FreeRTOSは、Operating SystemですのでMCU資源のユーザによる直接アクセスを嫌います。メモリなどの直接表現ではなく、論理的にメモリを繋げたQueues:キューという手段で、通信という方法によりタスク間データ送受信を行います。FreeRTOSのタスク間通信Queues:キューは、FIFO:First In First Outとして使います。

FreeRTOS Task Communication
FreeRTOS Task Communication

タスクAからタスクBへキュー経由でデータ通信する例です。受信タスクBは、xQueueReceive()でキューからのデータを受信します。このキューにデータが無い時のみSuspendedへ移行します。Suspended中は、キューデータ有無をRTOSが監視し、データが生じた時はタスクBのxQueueReceive()以降の処理が実行されます。

つまりタスクBは、xQueseReceive()の記述のみでデータ受信処理が実現できます。データ有無による待ち制御は全てRTOS側で行いますので、タスクBは受信処理のみの簡単記述ができます。

キューにより送受信タスクの処理は完全に分離されますが、処理結果のデータは、FIFOなので順序が保たれて通信されます。

Semaphore:セマフォによる同期

FreeRTOSのSemaphore:セマフォは、バイナリセマフォです。割込みによる同期を図示します。

FreeRTOS Semaphore
FreeRTOS Semaphore

割込み処理は、割込みハンドラーと割込みサービスルーティン:ISRの2つで構成します。割込み発生時、優先順位に応じてMCUハードウエアが自動的にCallするのが割込みハンドラー、実際の割込み処理を記述する部分がISRです。※図では、Interrupt!がハンドラー、TaskがISRです。

FreeRTOSの割込み同期は、ISRで割込み発生をxSemaphoreTake()で待ちます。割込み発生時、ハンドラーで割込みフラグクリアなどの処理後、xSemaphoreGiveFromISR()で動作許可(図赤丸)を与えます。この動作許可によりISRのxSemaphoreTake()以降の割り込み処理が実行されます。これが割込み同期の実現方法です。

ISR処理後、動作許可は消えます。再びハンドラーが動作許可を生成するまでISRはSuspendedになります。

Mutex:ミューティックスによる排他制御

FreeRTOSのMutex:ミューティックス排他制御を図示します。

FreeRTOS Mutex
FreeRTOS Mutex

ミューティックスの場合は、セマフォと異なり初めから動作許可(図赤丸)があります。この動作許可を初めにTakeしたタスクAのみが共有リソースへアクセスできます。タスクAのアクセス中は、動作許可がないタスクBはxSemaphoreTake()でSuspendedになります。タスクAのアクセス終了後、動作許可をxSemaphoreGive()で放棄するので、今度はタスクBが共有リソースへアクセスできます。これが排他制御の実現方法です。

つまり、動作の許可を示すバイナリセマフォを同期で使う時はセマフォ、排他制御で使う時はミューティックスと呼ぶだけで、使用するAPIは、どちらもxSemaphoreGive()とxSemaphoreTake()です。
違いは、セマフォ同期のvSemaphoreCreateBinary()では、初期値:動作許可が無いこと、ミューティックス排他制御のxSemaphoreCreateMutex()では、初期値:動作許可が有ることです。

まとめ

FreeRTOSのタスク間データ通信、同期、排他制御の方法を示しました。これら待ちの制御は、スケジューラーのタスク管理Suspendedが重要な役割を果たします。

データ通信は、Queue:キュー作成後、このキューへタスクからデータSend/Receiveという通信で実現します。同期と排他制御は、Semaphore:セマフォ作成後、このセマフォへタスクから動作許可Give/Takeにより実現します。

タスク側の記述は、データのキューSend/Receive、セマフォの動作許可Give/Takeという単純なFreeRTOSのAPIのみで良く、関係タスクの状況に応じて即Runningにするか、あるいはSuspended→Ready→Runningにするかの面倒な制御は、全てRTOS側が行います。従って、ユーザタスクは、必要処理の簡単記述ができます。

今回登場したFreeRTOSのAPIが以下です。

キューデータ通信:          xQueueCreate()、xQueueSend()、xQueueReceive()
セマフォ同期:                  xSemaphoreCreateBinary()、xSemaphoreGiveFromISR()、xSemaphoreTake()
ミューティックス排他制御:xSemaphoreCreateMutex()、xSemaphoreGive()、xSemaphoreTake()

上記と、第2回で示したFreeRTOSのAPIとを加えても20個弱のAPIでFreeRTOSが使えます。これらのAPIとFreeRTOSスケジューラーを理解していれば、FreeRTOS以外でも慌てずにRTOSソフト開発に着手できると思います。

最終回の次回は、ソースコード+評価ボードの開発環境に勝る解説書はない、という話をする予定です。